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プロローグ
ずぶ濡れの男が立っている。
ずぶ濡れの男がこちらを視ている。
汚れたレインコートは男のシルエットを曖昧にし、
目深にかぶったフードはその表情を隠しているが、
憎しみを込めた瞳だけは、
射殺すような視線だけは、
明瞭に感じ取ることができる。
男はこちらに一歩踏み出す。
思わず逃げ出そうとするも身体は動かず、
背を向けることも、
瞼を閉じることもできない。
男が一歩一歩近づく度に、
恐怖で身体が凍りつく。
怖い、
怖い、
来るな。
やがて男はこちらの目前に立つ。
泥に塗れた顔が視界を埋める。
男の開いた口内から泥が溢れ、
「呪ってやる」と、
そう言った。