~ジェネシス~
東京都ーー丸の内某企業のオフィス。
人事面接官の一色聡美は困惑せざるを得なかった。
「俺は今まさに窮地に追い込まれている」
聡美の前に座っているスーツ姿の男性。樫茂守というその男性の経歴書にふと目をやると、アメリカの超有名大学のMBA資格にこれまたアメリカの某超有名企業での職務経験。さらには資格や特技にもこれまた人目を引くような魅惑的なことが何行にも渡って詳細に書かれていた。
「ええと、窮地と言いますと?」
先ほどから会話のペースを乱されどう対応していいかわからない聡美はそれでも青年と会話を続けようとする。
「俺は今盤上の駒だ」
樫茂はこれまた意味のわからない回答をする。
「はい?」
思わず自分でも怪訝そうに聞いたと分かるほどの返事を聡美はする。
「俺は言うなれば駒。そしてここは盤上だ」
「はぁ」
聡美はうやむやな肯定をした。
直近で一番目を引く履歴書の面接は直近で最悪な人事面接になってしまった。
◇ ◇ ◇
「で、どうだった彼は?」
聡美の上司である杉崎が聡美に問う。
「どうって……」
聡美はなんといっていいかわからず、せっかく期待の履歴書の彼がうんともすんとも会話が通じない中二病の輩だったことは杉崎への回答に困った。
「何にもありません。彼はダメです。コミュニケーションが取れません」
聡美はそう言う。
「なんじゃそりゃ」
杉崎が出鼻をくじかれたように答える。
「だって彼が言うことは意味不明なんですもん。盤上の駒だとか窮地に立たされているとかで。『今までどんな業務をやってきましたか』という質問に対しても彼は、『借物の箱に入れてきた』とかよく意味の分からないことを言っておりまして」
「そうか」
「とにかく」
聡美は少し不満に声を上げる。
「ここ最近で一番目を引く転職者の彼はひどいものでした。大方、経歴偽装でもしていたのでしょう」
と、杉崎に礼をしてその場を後にした。