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荒木空の佰物語  作者: 荒木空
8/8

『地獄の出入口』


 これは私が今年の夏に体験した話。



 夏と言われればプールや海なんかの水を連想させる場所を思い浮かべると思います。そしてそれと同じくらいホラー、所謂心霊体験なんかが夏には取り上げられると思います。実際、私は私を入れた友人達6人と私達が住んでる場所から1番近い海に遊びに行き、夜には肝試しをして、また翌日にはまた海で遊んで、また夜には別の場所で肝試しをして、翌日はのんびりゆっくりして、4日目の朝には帰る。そんなプランを立てて旅行に行きました。


 海に着いて遊んで、夕飯を食べて、1日目の夜まではとても楽しかった。皆心の底から笑ってる。そうお互いが感じられるぐらいとても楽しかった。





 ただ、そんな楽しい旅行1日目最後のレクリエーション。ここでの事がキッカケで、その後の旅行はとても後味の悪いものになりました。


 最初の肝試しの場所は来る時にも使ったトンネルでした。そのトンネルは普通の山をくり貫いて作られたトンネルで、そしてとても長いものでした。

 辛うじて二車線で、大型トラック2台がすれ違えばミラー同士が当たりそうだと思うぐらいの広さ、と言えばイメージしやすいでしょう。


 そんなトンネルは、横幅はそんなものですが、長さがとても有りました。

 たぶん、5キロは有ったと思います。夜は人が滅多に通らない事も相まって照明は非常灯みたいなのが点いてるだけになるんです。だから昼間より暗いんです。

 そのトンネル、実は5ヵ所ほど等間隔に明らかに違う場所が有りました。車が数台止まれそうな場所です。たぶん管理室なんでしょうね。トンネルの入口から出口までの間に等間隔で在る管理室。友人の1人がそれを見て言ったんです。


 「なぁ、夜の肝試しはこのトンネルの入口から2個目の管理室まで行かね?」


 5キロなのであればつまり2つ目の管理室の場所はと言えば2キロ先。その友人は、こんな暗くて長いトンネルを2キロ行って帰って来ようと言ったんです。


 話は勿論賛成派と反対派に分かれて、最後には賛成になりこのトンネルを合計4キロ歩く事になりました。深夜のトンネルを4キロも歩くんです。軽い拷問ですよ。


 ただ、一応救済措置みたいなので、最初の管理室の場所まで行けば引き返して来てもOKという事になりました。まぁ、それでも半分の2キロ。実質2ヶ所目の管理室までの片道と同じぐらいの距離です。

 まぁ、言い出しっぺを含めて皆1つ目の管理室までしか行かない事はわかりきってたので、賛成側の1人が「なら辿り着いた証明として、1組目は懐中電灯を、2組目は線香を置いて、3組目はこの2つを回収してこよう!!」と、何処からか取り出したお線香の束1つとライターを1つ予備の懐中電灯1つを私達に見せながら言いました。


 ルールはそれで決まったのですが、反対側の1人が「流石に1人でなんて事はないよね?1組目とか言い方してたから勿論2人以上だよね?もし1人でなんて言うなら今すぐ旅館に帰って明日の朝には帰るから」とまで言ったため、1回に行くメンバーは2人ずつとなりました。

 私は順番は最後で、パートナーはメンバー1ビビりの男の子でした。



 まず最初の組が歩いて行き、40分ほど経とうとした所で彼等は帰ってきました。

 彼等に変わった様子は無く、でも顔にはやりきったという感情が見て取れました。まぁ、それもその筈です。なんせ賛成組の内の2人が組んだのですから、こうなるのは半ば予想通りでした。


 次に2組目が行きました。この組は賛成側と反対側混合の組です。掛かった時間は1時間。2キロの距離を怖がりながら進んだと考えればまだ早い方でしょう。

 ただ、それ故か、はたまた全く別の理由か、2人の表情(カオ)はとても対照的でした。賛成側の子が酷く怯えた様子で顔を青褪めさせガタガタと震えていて、反対側の子が勿論顔を青褪めさせてはいましたが表情が固かったんです。


 此処で私は過去の経験から明らかにこれ以上入るのは良くないと本能的に理解したので、「ヘタレでも根性無しでも何でも良いからもう止めない?これ以上は絶対ヤバいよ!」と他4人に懇願しました。

 2組目の賛成側の子は、6人の中で最も霊感が強いと言われてる子でした。その子がそれほど震えていたのと私の経験上この後ロクな事にならないのは目に見えていたからの訴えでした。


 しかし1組目の2人が「怖がり過ぎだって。大丈夫大丈夫。というか、置いてきた懐中電灯と線香を回収して来ないと駄目でしょ?他4人は行ったんだから、早くお前等も行って来いよ。」「大丈夫だって。朝まで掛かったとしても待っててやるからさ!」なんて言って、最終的に私の懇願は虚しく行くことになりました。


 長い長い道程(みちのり)を懐中電灯で前を照らしながら牛歩の歩みで進む私達。相方のビビりの彼は私の腕にしがみついてガタガタ震えています。この時はまだ精神に余裕の有った私は「男なんだからもう少し格好付けてくれても良いのに…」だとか、「どれだけ強い力で私の腕掴んでるの?!痛い!痣になったらどうしてくれるの!!」なんて、怖さを紛らわせる為に内心彼の事を罵りながら、早く終わらせようと歩を進めました。




 他4人の待つトンネルの入口がギリギリまだ小さく見え、目的地と思われる場所に置かれたであろう懐中電灯の光が見えた頃の事です。突然空気が変わりました。


 それまでは夏の夜の特有のジットリとした空気だったのですが、ある場所を越えた辺りから冬のような冷たさでありながら、先程までのジットリとした空気とはまた違った『ねっとり』とでも言うような空気へと変わったんです。

 周りを懐中電灯で照らして見てみると、その空気が変わった境界線とも言うべき場所にはトンネルの壁際に向き合うように鎮座するお地蔵さまの姿が……。


 この時点でもう嫌な予感しかしてなかった私は、早く終わらせたいが為に、ビビりの彼に提案しました。


 「走って行って、さっさと戻らない?」


 彼は激しく首を縦に振り、私から離れました。

 ソコから私達は全力で走りました。幸い、彼と私の走るスピードはそれほど変わらなかったので大きく差が付くこともなく、あっという間に目的地に着き、私達はお線香と懐中電灯を回収して踵を返し、直ぐ様元来た道を戻りました。


 お線香の匂いが鼻を擽り、何故か安心感を持たせてくれている。お線香が私達を護ってくれている。そんな錯覚を覚えながら必死に無我夢中で走りした。



 そして行きの時に『空気が変わった』と認識した辺りで、私も彼も何故か転んでしまいました。別に何か引っ掛かるような物が有った訳ではありません。段差が有った訳ではありません。しかし転んだ私達は、互いに顔を見合せ、すぐに立ち上がり、後ろを振り返る事なくより一層スピードを上げて他4人の待つトンネルの入口へと走りました。





 程無くして、私達はトンネルの入口へと帰ってきました。

 走った事も有り互いに顔面蒼白と云った様相であったと自覚はしてましたが、それよりも驚くべき事を彼等に笑いながら言われ、ビビりの彼は遂にその場で気を失ってしまいました。


 「3時間も掛かるなんて、どれだけビビって進んでたの?めちゃくちゃ暇だったんだけど」


 走って疲れたこと、精神的疲労で疲れたこと、何より途中で転んだ事とビビりの彼がその場で倒れた事と相まって、私は許容量を越えたんでしょうね、腰を抜かしてしばらくその場から動けませんでした。




 2日目。私達は予定を変更して1日のんびり過ごしました。

 当然です。結局旅館に帰って来たのは朝の4時頃。前日に長い車移動で疲れている所に一睡もせずに精神を磨り減らすような肝試しをしたんです。元気に海で遊ぶ気力は、少なくとも1組目の2人を除いた私達4人には無かったんです。


 2日目夜。2組目の霊感が強い子が言いました。


 「明日は此処のお寺か神社に行ってお祓いをしてもらおう」


 1組目以外の4人は賛成しましたが、1組目の2人は何故か頑なに拒否しました。2人の言い分は「せっかくの旅行の計画が既に崩れてるんだから、明日は思う存分海で遊びたい」というものでしたが、明らかに2人の様子はおかしかったです。『お寺』『神社』、このワードが出た途端に顔を嫌そうなものに歪めながら否定していたからです。

 普段の2人なら絶対にこんな反応はしません。何故なら2人ともお寺や神社といった場所が好きで、よく御守りなんかをお土産に買って来るような2人でしたから、明らかにおかしいです。


 2人に限らず、他にもおかしな所は有りました。


 まず私とビビりの彼。私達2人は、まるで後ろから強く掴まれたような手型の痣のようなものが足首に有ったんです。2組目の2人にはまるで何かに噛み付かれたような歯形の痣や、首にうっすらと指の痕のようなものが見えたんです。



 様子のおかしい2人と私達全員の状態を鑑みて、私達は無理矢理2人を神社やお寺に連れていく事に決めました。




 3日目。まずは神社へと向かい、厄祓いをしてもらう事になりました。

 ただ、明らかに神社へと近付くほどに暴れる様子のおかしい2人に私達はかなり苦労しました。そんな2人の様子を見て取った神主さんが何かを感じ取ってくれたのでしょう、厄祓いを直ぐ様執り行ってくださいました。


 御祈祷が開始してすぐに2人は苦しみ始めました。薄々感じてはいましたが、その時点で私達は2人に何かが『憑いている』事を強く認識させられました。

 苦しみのあまりかまたも暴れる2人を別の宮司さん達複数人が2人を抑え付けました。


 2人に限らず他の3人も何処か苦しそうでした。

 かく言う私も、なんだか首を絞められるような感覚が有ったので息が詰まりつつ、御祈祷の声をしっかりと耳に入れました。



 そうして1時間ほど経ったところで御祈祷は終わりました。暴れていた2人はどうやら気を失っているようで、途中から動かなくなってました。


 「手遅れになる前で良かったですね」


 神主さんが最初にそう言った事で、私達の間に寒いものが走りました。

 どういう事かと聞くと、あのトンネルで肝試しをやったのかと聞かれました。


 ソコから詳しく聞いた話によると、どうやらあのトンネルは所謂『吹き溜まり』なんだそうです。『良くないもの』の溜まり場なんだとか。10月に神が出雲へ集まるのなら、それ以外の『良くないもの』は8月に吹き溜まりに集まるのだと説明されました。

 毎年必ず一組の旅行者達がその神社にお祓いに来る、なんて説明をされればどれだけ危ない場所なのか嫌でも自覚させられました。

 地元の人達は8月深夜のあのトンネルの事をこう呼ぶそうです。『地獄の出入口』と。あの2人は地獄の住人複数に体を乗っ取られ掛けていたと説明されました。そして私達はあちらの住人の食糧になりそうだったのだとか。血の気が引いたのは言うまでもありませんでした。




 それからの旅行の予定は全てキャンセル。最終日である翌日にもう一度神社を訪れ、お寺にもよって厄除けをしてもらい帰りました。

 1組目の2人はまるで萎んだかのように元気が無くなり、帰る時も大人しかったです。他の3人も物凄く疲れた様子でグッタリとしていました。私も私で、運転の番の時以外は外の景色をボォーッと眺めて過ごしました。


 その後どう過ごしたかは覚えていません。記憶が未だに曖昧なんです。ただ、夏休みはその後何処にも行かずに部屋に引き籠もってた事だけは覚えてます。





 この一件で私は心に誓いました。

 もう2度と肝試しなんかやるもんかと。



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