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荒木空の佰物語  作者: 荒木空
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『鬼山』


 これは私が友人から聞いた話。


 仲良し4人組の女の子達が夜の峠を車で走っていたらしい。

 彼女達の年齢は……車の免許が取れるぐらいだそうです。


 彼女達は各々が免許を取れる年齢になったら免許を取って、翌日が休みの日は夜通しで遠出をしようなんて約束をしていたらしい。彼女達の内の1人の家がお金持ちで、免許取得祝いに車をプレゼント、なんて事が出来てしまうほどの財力を持つ家の子供というのも、彼女達のこの約束を実現させる要因になったんでしよう。


 峠とは山を降りる道の事。つまり場所は勿論山で、街にある街頭のような物は無く、明かりは彼女達の乗る車から発せられる光のみ。少しでも怖がりな人ならこのシチュエーションを聞いただけで身震いする人も居るかもしれない。そんな状況でも彼女達は親友達との時間を名一杯楽しんでいたそうです。


 「上司がさ~」

 「同じクラスの〇〇がね」

 「覚えてる?高校の時に居た✕✕!アイツ今」

 「え、好きな人?□□グループの△△君!」


 話題は各々話したい事を喋り、周りがそれに対して色々言う。学生の頃に1度は誰しも目にした事が有りそうなその光景は、彼女達がまさにこの状況を楽しんでいる証でした。




 尾根の辺りから走らせること1時間。彼女達の1人が唐突にこんな事を言い出した。


 「ねぇねぇ、そういえばこの山って、昔から怖い噂が有るって知ってる?」


 いつもと変わらない調子で普通に話す彼女のその言葉に、他の女の子達は興味津々だった。怖いものが嫌いな子も中には居たそうだけど、『怖いもの見たさ』という言葉が有るように、全く受け付けないという訳ではなく、むしろ1つの娯楽として楽しむ余裕が有ったため、苦手な子も含めてその話に聞き入ったらしいです。


 「この山、実は幽霊を従えてる鬼が出るんだって!」


 「なにそれ、こわーい!」なんてその場のノリに任せてふざけ合う彼女達。実際彼女達にとっては『鬼が出る』というだけの噂は、所詮噂話でしかなく、遭遇した訳でもないのだからただの雑談の話題の1つだった。

 しかし、次にこの話題を出した子が提案した内容により、彼女達の意見は2つに分かれた。


 「その鬼、条件さえ満たせばどうやら会おうと思えば会えるらしいよ!

 ……ねぇ、鬼なんて空想上の生き物に会ってみたくない?」


 ここで分かれたのは当然『会いたい派』と『会いたくない派』だ。鬼の話題を出した女の子と現在運転をしている女の子が『会いたい派』。他の2人が『会いたくない派』。席の位置も、なんの偶然か前と後ろだった。


 そこから2つの意見はぶつかり合い、激しい喧嘩が起こった。途中、車が止まる事があったと言えば、その激しさを想像しやすいだろう。

 そして激しい喧嘩の末、完全に車を道の脇の停め、降りて喧嘩をし始める事となってしまった。と言っても、流石に殴る蹴る掴むなんかの直接的な暴力が起こる事はなかったらしいけど、それでも夜の住宅街なら苦情で通報されててもおかしくないぐらいには喚き散らしていたらしい。


 「なんでソコまで嫌がるの?!別に本当に会える訳ないんだから良いじゃん!!」

 「本当に会えたらどうするの!!?私は絶対に嫌!!」


 双方の意見はお互いに全うだった。お互いにたらればの話をしているのだから全うなんてものは無いが、それでもお互いの主張を第三者が聞けば双方の意見に納得するぐらいには普通の意見だった。


 しかしある時をきっかけに、この話は終わりを告げたらしい。

 そのきっかけというのが、『会いたくない派』の唐突な体調不良だった。


 唐突に、なんの脈略も無く、突然『会いたくない派』の2人が頭を抑えて苦しみ始めたらしい。話を振った子と運転していた子は唐突な事に困惑し、先程まで怒鳴っていたことも忘れて2人に近寄った。


 「えっと、大丈夫?山を降りるまで我慢出来そう?」


 普段生活している所より高い所でエネルギーと酸素を使う怒鳴り声で体調が悪くなったんだろう。そんな事を考えての事だった。だから近付いて、肩に手を置き、『会いたくない派』の2人の顔を覗き込むように心配をした。


 「……げて…」


 「え、なんて?」


 「…や……げて………」


 「ごめん!ホントに聞こえにくい!ねぇ、本当に大丈夫?車乗れる?」


 唐突に起きた明らかに異常な2人に先程まで考えていた『鬼に会う』なんて目的を忘れて本気で心配する『会いたい派』の2人だったが、次に強く放たれた言葉で一瞬頭が真っ白になってしまった。


 「早く逃げて!!!!」


 突然頭を抱えて痛そうに苦しんでいる親友達から放たれた言葉に、一瞬動きが止まった2人は、更に心配して更に声を掛けようとした。


 しかしそれが叶う事は無かった。代わりに返って来たのは、頭をぶつけたような痛みと息苦しさだった。


 パニックで頭の中が真っ白になった『会いたい派』の2人。それでもなんとか何が起きたのか把握しようと後頭部の痛みを我慢して周囲を見ると、最初に映り込んだのは先程まで苦しんでいた親友の1人だった。

 彼女は白目を剥いて、額にいくつもの血管を浮き上がらせながら、『会いたい派』の子の首を絞めていたらしい。


 首を絞める手は徐々に力を増していき、ドンドン息苦しさが増して行く。抵抗のために自身の首を絞める親友の手をどうにか剥がそうとしても、人間では考えられないほどの力で絞め上げられてどうすることも出来なかった。



 次第に遠退く意識。そんな中で聞こえて来たのは地の底から響くような低い声や、しゃがれた声など人が出してるとは思えない声達だった。


 「肉だ」「新鮮な肉だ」「しかも女だぞ」「久し振りのご馳走だ」「落ちろ」「落ちろ」「落ちろ」「落ちろ」「早く死ね」「早く肉を喰わせろ」「オレ達に新鮮な肉と血を喰わせろ」


 声を聞いて、今の状況がどういう状況なのかわかった『会いたくない派』の2人の中に、一気に死の恐怖が生まれた。何故親友達が自分達の首を絞めているのか、そして聞こえてくる声の正体がなんなのかを理解してしまったからだ。


 意識が遠退きぼやけていた視界はより一層ぼやけて行き、脚をバタバタと動かしなんとか助かろうと藻掻く。しかし力が弱まる事は無く、結局最後には抵抗虚しく意識が落ちたらしい。




 気が付くと、辺りは太陽に照らされてとても清々しい日の光が彼女達を照らしていたらしい。

 4人は各々元居た車の座席座っていて、まるで昨夜の事が無かったかのように寝落ちしてしまったような状態だったそうだ。


 昨夜の事を鮮明に覚えてる『会いたい派』の2人はお互いの顔を見てホッとしたあと、急いで後ろを見た。ソコには昨夜と変わらない姿の『会いたくない派』の2人が居て、スースーと可愛い寝息を立てていた。


 今度こそ安心した2人は、目を瞑りながら深く背凭れへと体を預けた。そして次に目を開けて正面を見た時、息を詰まらせた。


 車の外、車を中心に約2メートルほどをグルッと赤黒い何かの跡に車を囲まれていたからだ。

 その赤黒いものはまだ乾いていないらしく、テラテラと太陽の光に照らされて光を反射させていた。


 それを認識した『会いたい派』の2人は急いで車を走らせ下山したそうです。




 下山は何も問題無く出来て、各々の家に帰った彼女達。後日、この話をしてくれた友人はネットやその山の近くの町の図書館などに寄って、あの夜の事を調べたらしいです。

 すると、『あの山で複数人で居る時に鬼の話題を出すと、内何人かに鬼が従えてる幽霊に体を乗っ取られ、乗っ取られていない人達を殺そうとするらしい。』という事がわかったそうです。こうなった時に助かる方法はただ1つで、霊験あらたかな御守りを持っていれば恐怖体験だけで済むんだとか。


 ちょうど、運転をしていた子の実家が有名神社の家系の分家だそうで、ソコ経由で貰った御守りを4人全員が持っていた事で生き残れたんだとか。

 これを調べたその友人はその事を他の3人に伝えて御守りの中身を確認したそうです。


 元々中には小さいお札のようなものが入っていたそうですが、それは、血の乾いたようなものへと変色していて、乾いてはいるのに触り心地は最悪だったそうです。




 この話をしてくれた友人は、最後にこう言ってました。


 「なんであの時、私はちゃんとあの山の事を調べずに、あんな軽率に話しちゃったんだろう……」と。



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