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荒木空の佰物語  作者: 荒木空
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『あなたは誰なの?』


 これは実際にあった話。


 小学生の頃、その地域ではイタズラ小僧で有名だったA君は、友達のB君Aちゃんの2人と一緒に近くのお寺の境内でよく遊んでいた。

 そのお寺は昔から有名な寺で、亡くなった方の埋葬も請け負っている寺だった。埋葬場所は寺の裏手。お参りをする人が居るのだから当然行こうと思えばA君達もその墓地へと足を運ぶ事は容易だった。


 しかし彼等がその裏手の墓地へと行くことは基本的になかった。当然だ。親達に止められていたのもそうだが、その墓地には昔から『出る』という噂の絶えない墓地でもあったからだ。


 その墓地は寺の住職以外の者が1人で足を踏み入れれば世にも恐ろしい怪奇現象の起こる墓地とも言われており、それ故に誰も1人で中に入る事はなかった。入った者は、大抵怯えて帰って来たという話が絶えないのも、その地域の人達が墓地にむやみやたらに立ち入らない理由だったのだろう。



 そんなある日の事だ。A君は唐突に言った。

 「なぁ!もう俺達も10歳で大人達と同じ2桁歳だ!なら、俺達3人でなら墓の方に行っても問題無いんじゃないか?」


 B君もAちゃんも、A君の言葉に呆れながらにこう思っていた。「あぁ、またか」と。

 実はA君、今回よりも前に3度この寺の墓地に足を運んだ事が有ったのだ。それも3回とも1人で。しかしその3回とも、A君にとっては知らないオジサンに見付かり毎度怒鳴られていた為、墓地の敷地にあと1歩というところでいつも邪魔され入れずに居たらしい。


 しかし今回、3人の中で1番誕生日の遅いA君が誕生日を迎えた事で、遂に彼の我慢は限界を迎えたらしい。彼の中で、B君とAちゃんが一緒なら問題無いという判断だったんだろう。


 ただそんなA君の想いとは裏腹に、B君もAちゃんもA君の提案に乗り気じゃなかった。

 B君は自分から危ない事をするのが理解出来ないタイプの人間だったし、Aちゃんは怖がりだった為、もし万が一何かが有ったらと考えたら足が(すく)んで動かなかったからだ。


 結果、彼等はA君を必死に説得した事でその日のA君の提案は却下される事となった。




 夕方。そろそろ帰ろうかと荷物を片付け寺から出ようとしていたタイミングだった。その時にA君が言った。


 「あ、ごめん。寺のトイレにハンカチ忘れたみたい」


 墓地でお参りしたり法事なんかで長時間拘束される事が予想される場所の近くには簡易トイレが備え付けられていた。そのトイレは境内で遊ぶ子供達も気軽に使えるトイレで、当然A君達も昔から使っていた。


 「ちょっと待ってて!すぐに取って来る!」


 そう言って寺の方へと駈けて行くA君。B君とAちゃんは「仕方無いな」なんて思いつつ、A君を待つことにした。



 それから30分ほどの時間が経った。

 流石にいくら何でも遅い。もしかして自分達に嘘を吐いて墓地の方に行ったのでは?B君達にそんな疑念が湧いた頃だった。探しに行こうか、そうどちらともなく提案しようとしたタイミングでA君が帰って来た。


 「ごめん!探すのに手間取った!お坊さんに一緒に探してもらってようやく見つかったんだけど、今度はお腹が痛くなっちゃって。ちょっとトイレしたくなったからやってた!待たせてごめん!さ、帰ろうぜ!」


 本当に申し訳無さそうに言うA君に、B君達は「なんだよソレ。それなら帰ってれば良かった」やら「A君下品!」なんて和気藹々としながら各々の家へと帰って行った。






 翌日の事である。A君が学校を休んだ。

 A君が休むのは珍しい事だった。それに加え、その日A君達の担任の先生が教室に来るのも遅かった。


 何が有ったんだろう?B君達がそう思っていると、B君達は校内放送で校長室へと呼び出しを受けた。


 この時点で何かが有った事を察した2人だったけど、何が有ったのかまではわからない。でも、行かない事には始まらなかったから、2人は校長室へと向かった。



 校長室内に入った時、中で彼等を待っていたのは泣いているA君のお母さんと校長先生と教頭先生と担任の先生だった。


 「えっと、何が有ったの?」


 Aちゃんは戸惑いながらそう校長先生に尋ねた。

 返って来たのは「昨日の夕方、A君達と2人は一緒に居た?」という質問だった。


 訳がわからない。だけど、かろうじてB君達は頷いた。


 「ねぇ、なんでそんな事聞くの?ねぇA君のお母さん、なんで泣いてるの?A君なんで今日学校来てないの?」


 Aちゃんの問い掛けにより、より一層A君のお母さんの泣き声は大きくなり、遂には顔を膝に埋めてしまった。


 明らかに只事じゃない光景に、貰い泣きで泣きそうになり始めたAちゃんを見て、B君が担任の先生に問い掛けた。


 「何が、有ったんですか?」


 返って来たのは無慈悲であまりにも唐突な別れを告げる言葉だった。


 「A君が昨日の夕方頃に死んじゃったみたいなの…」




 そこからはどうしようもなく荒れた。当然だ。だって、その時に教えられた時間というのは、A君がハンカチを探しに行ってる時間だったんだから。


 でも、同時にB君達は2つの事を思った。

 「やっぱりお墓の方に行ってたんだ!」という事。そしてもう1つは、「じゃあ、一緒に帰ったあのA君はいったい誰なの……?」




 警察の調べが入り、調査した結果、このA君が死んだ事件については迷宮入りとなり、早々に捜査は打ち切られた。


 当然だ。警察にとって、今回のA君の事件は初めてじゃなかったのだから。



 B君Aちゃんの住む地域のお寺。ソコは昔、破戒僧が中心に建てたお寺で、しかもその破戒僧達は皆、人殺しをしていた破戒僧だったそうだ。彼等を恨み、彼等を殺そうとやって来た当時の人々は、彼等を殺し、逆に殺されを繰り返したそうだ。


 戦後、建て直されたこの寺には普通の仏教を説く宗派が入り、過去この地で行われた悲惨な出来事を憂いた住職は、ここに彼等の魂が安らかに眠れるようにと墓を建てたらしい。


 その日から、寺の住職以外の人達が墓地に、特に1人で入ると怪奇現象が起きるようになった。まるで、安らかな眠りを妨害するものを許さないように。


 そんな墓地では毎年1件か2件、必ず死体が見付かるのだ。

 毎度見付かるそれは、白骨の死体で、その骨はまるで肉を貪り骨までしゃぶり尽くして放置されたような強烈な異臭を放っているそうだ。


 A君の死体も、同じ状態だったらしい。

 それも、推定死亡時刻はハンカチを取りに行って帰って来るまでの間の時間だった。






 今でも思う。じゃあ、あの時私達と一緒に帰ったA君はいったい何処の誰だったの?



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