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荒木空の佰物語  作者: 荒木空
4/8

『イサナ』


 男は混乱していた。当たり前だろう、これまで見えていた世界が徐々におかしなものになって行ったのだから。



 事の発端、と呼べるものは無かった。ただ、次第に彼の目に写る世界が変わって行ったのだから。


 最初はちょっとした違和感だった。

 その違和感は日を追う毎に徐々に膨れ上がり、最後には地獄と化したのだから。


 我々が目にする世界は基本的に皆共通とされている。もちろん中には我々と違ったものが見えてる人も、確かに居ることには居るだろう。しかし、写る視界が徐々に『地獄』を連想させるようなものへと変わって行ったなら、あなたは正常でいられるだろうか?



 コンクリートジャングルが巨大な鋭く尖った山に見えたら?


 草木が己を嘲笑う植物に変貌していたら?


 犬や猫なんかの動物達の顔面がこの世のものとは思えないものの顔になっていたら?


 自動車や自転車や飛行機や船なんかの乗り物が人間を喰らう化け物になっていたら?


 人の顔が皆、眼球の無い真っ黒な虚ろの目になっていて、その目が常に自身を見つめていたら?


 そんな光景が、身近な人から起これば?



 正気を失わずに済む常人はほぼ居ないだろう。

 男は常人だった。だから発狂した。発狂するのも無理はない話だった。




 そんな男のある日の事だ。ある日突然、必死に戻りたいと()い願った世界の住人が男の前に現れた。しかもその人物は、男の美的センス的に絶世の美女だった。


 男は泣き出しそうな気持ちをグッと堪え、女に声を掛けた。


 「あ、あの!」


 女は男の様子を見て優しく微笑み掛けた。そして公園のベンチへと彼を誘い、彼から話を聞いた。


 彼女は自身を『イサナ』と名乗った。話を聞いた彼女はそれはもう驚き、そして彼を抱き締め(なぐさ)めた。

 「辛かったですよね」「怖かったですよね」「私で良ければいくらでも話に付き合いますよ」


 夢のようだった。これまで見えていた異常なものの中に現れた唯一の正常。彼が彼女に夢中になり依存するのは時間の問題だった。



 それから半年後、男は女に告白をした。告白は見事成功し、2人はとても仲睦まじい恋人同士になった。

 彼女と付き合う事が出来たからだろうか、男の視界に映るものは全て元のものへと変わっていた。男にとって、彼女との出会いこそが男が生まれてきた意味だと考えるほど、彼は本気でイサナの事を想っていた。




 しかし世間が彼等の仲を認めなかった。

 具体的にはイサナの方の存在を、だ。世間は徹底してイサナの存在を認めなかった。

 差別や迫害なんて言葉が生易しいほど、時には男が拉致監禁されるほどに世間から反対された。


 その結果男はイサナと逃げる事にした。人が居ない、そんな場所を求めて。



 最後に彼と彼女を見たこう言った。


 「化け物が男の人を山奥へと連れて行った」と。









 とある地方の今はもう存在しない小さな村にこんな言い伝えが有ったらしい。


 『イサナには気を付けろ。もしも奴に目を付けられたなら、周りの言葉を信じろ。』


 『イサナ』。度々その村や近くの町に見る人にとってとても魅力的な姿となって現れ、何処かへ人を誘う怪異。目的はわからないが、イサナに目を付けられた者は2度と帰って来なかったらしい。


 果たして『イサナ』は何を目的に彼等彼女等を何処(いずこ)へと誘うのか……。



 これは、1度目を付けられれば主観では足掻く事すら叶わない怪異のお話。



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