『ゲケツ』
男は唐突に血を失う病に罹った。医者に診てもらえば、『血失病』だと言う。
この病をわかりやすい言葉で説明すれば、『カロリーを消費するだけ同じ量の血が体から失われる病』らしい。
男は徐々に失われていく血液により意識が朦朧となり、即入院。
しかし1週間もすれば快復し、無事退院出来たのだった。
そう、この話の男は『ヨケツ』の時の男だ。
化け物と出会い、その化け物に助けられた男の話だ。『ヨケツ』の話はここで終わりだった。
そう、『ヨケツ』の話は。
そして彼が『ヨケツ』と呼んだ怪異の名前が、本当に『ヨケツ』だった場合は、だ。
彼等彼女等が『ヨケツ』と呼ぶ怪異。その本当の名前は『ゲケツ』。
漢字で書けば『外血』となる。
『ゲケツ』は血を失い死んだ人の魂が歪み変質した怪異だ。
『ゲケツ』は1人の血を失い困っている者の許へと現れる。あぁ、ここまでは『ヨケツ』と同じだ。しかしこの怪異が悪辣なのはここからだ。
『ゲケツ』は自身に助けを求めた者とは全く関係無い赤の他人の血を抜き取り、助けを求めた者に血を与えるのだ。そして助けを求める人間の浅ましく生き意地の汚い「助けて」を聞いて、内心人間を嘲笑するのが大好きな怪異なのだ。
あぁつまり、『ゲケツ』はずっと患者を作り続け、そしてその者が生を望めば新しい獲物を見繕う外道なのだ。
ただ、『ゲケツ』に狙われても命の危険は基本的には無い。何故なら『ゲケツ』が望むのは生にしがみつく人間の生き意地の汚さなのだから。
あぁ、だからこそ注意が必要だ。
何故なら『ゲケツ』の問いの答えに、もし生を望まなければ……。
これは本当は外道な、恐い恐い怪異のお話。