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第6話:シルバーバット

 飯はとても美味かった。

 材料に関しては何一つとして知っているものはなかったが、味は前の世界に似ているものがいくつかあった。

 野菜はこちらの世界でも優しいものでサラダのようなものもあって、私の胃を気遣ってくれた。

 メインは海鮮系で、鋏が4つあるカニの丸焼きだったり真っ青な魚の刺身だったり、見た目は中々に不思議。というか少しグロテスク。

 しかし味は先も言った通り美味い、美味いのだ。見た目はさておきこれなら私の胃もこちらの世界にすぐ順応できそうだ。


 ビアルはクソ不味かった。元々ビールがあまり得意ではない私はビアルの増強されたような苦みが合わなかったのだ。

 結局、無理やり喉に通した後フェッツェルという噛みそうな名前の果実酒を頼んだ。ゲロ甘だったがビアルより全然マシだ。


 会計は結局ゴルドー込みでミラさんが全部払っていた。気前がいいと言うか、軍のお給料は相当良さそうだ。

 水飲み鳥のようにペコペコ頭を下げまくる姿は側から見たら相当情けないものだったのだろう。早く稼げるようになりたいものだ。


「ごちそうさまです」

「ごちそうさまです」


 店を出た後も、私とゴルドーは水飲み鳥のように頭を下げまくる。

 社会に出たことは年数は人に誇れるほどではないのだが、それでもこうべを垂れるスキルは()()()()()であっても()()()に駆使できる。


「まぁ、出世払いだ。ゴルドーは、……出所払いか」


 ミラさんは少し呆れた顔つきで言った。

 ゴルドは垂れたこうべを手のひらでぺたぺたしながら、


「すいません、……ホントこれから気をつけます。」


 と、ばつのわるそうな顔で言った。

 そして私達は脳に少しの浮遊感と幸福感を漂わせながら店を後にした。


 ほろ酔い気分で帰路につく。結局3杯飲んだゴルドーも程よくキマっているようだ。

 ミラさんは足取りはしっかりとしていたが、少しだけ顔が赤くなっているようにも見える。


「ミラさん酔ってます?」


 意を決してミラさんの顔を覗き込みながら言う。ミラさんは少し口角を上げニヨニヨしながら、 


「まぁ、ちょっと」


 と人差し指と親指の先を近づけ「少し」を表しながら言った。言葉が少し柔らかくなっている。良い。


 ふとタバコの匂いを鼻腔で捉え、視線をゴルドーの方にやるとタバコを吸っていた。

 頭の喫煙ゲージが一瞬でMAXになる。


「あ、いいな。一本くだせえな」

「しょうがねえな奴だな」

「そう言わんと、おなしゃす」


 私はまたまたこうべを垂れる。

 ちらと顔を上げゴルドーの顔を伺うと、やれやれと言わんばかりに肩を落とし、


「もう一箱おごるよ。タバコ屋行こうぜ」


 と言った。

 いい展開だ。異世界乞食ライフもまた乙なものよ。


「ありがてぇです。どこにあるんです? タバコ屋」

「宿の近くだ」

「ええな」


 宿の近くにタバコ屋があるのは本当に嬉しい。

 私はタバコを買いだめしない性分なので、その都度買いに行ける環境というのが非常に好きなのだ。

 

 立地の好条件に嬉々としていると、ふとミラさんが足を止めた。


「私はこっちだ」


 そう言ったミラさんの人差し指は私とゴルドーの足先とは違う方向を指していた。

 ふとその先へと歩いて行く道の人たちを観察すると、気持ち裕福そうな人が多い。

 なるほどさすがは軍人。いいところに住んでいそうだ。


「そうなんですね、魔法の書と夕飯ありがとうございました」

「気にするな。それよりノイは明日予定あるか?」


 うーむ、ベタな質問だ。ゲームであったのならYesかNoの選択肢が右脇に出ていることだろう。

 流石にこんな序盤(?)の選択肢を間違えるほど私はバグってはいない。


「特にこれといってありませんよ」

「そうか、では明日軍を案内しようと思うのだが、どうだ?」


 本当によく気を遣ってくれるお人だ。困った人は放っておけない性分なのだろう。

 町の人々に顔も知られ、それでいて敬われているのもよくわかる。

 

「では、是非」

「うむ。ではそうだな、……15時くらいに城に来てくれ」

「了解しました」


 了解したが、15時か。時間の概念は前の世界と一緒なのだろうか。ふと見上げると、深海のような空に円形の小さな穴から煌々と光が差していた。

 太陽もあれば月もある。宇宙はとても前の世界と似ている、ファンタジーなのに。

 まぁ、深く考えたところでどうにでもなるというわけでもないし、どうすることもない。多少の時間差もすぐ慣れるだろう。


 ミラさんはまた「うむ」といって大きく頷くと、


「ではまた」

「今日はありがとうございました」


 私は、頭を下げいった。するとゴルドーが後ろから私の肩に手を乗せ、


「また飯いきましょーね!」

 

 と声を大きくしていった。

 ミラさんは手をひらひら降り、宿とは違う方向へ歩きだすと雑踏に混ざって消えた。

 ミラさんが消えた後も、私は赤髪の残像を少しの間眺めていた。


「うし! じゃあタバコ屋行くか!」

「はいー」


 そういって私達も、止まっていた足を動かし始めた。

 

 少し歩いて宿を通り過ぎてすぐのところに小さな木造のタバコ屋が鎮座していた。

 心なしか店の前に群がっている人たちは妙に柄が悪く感じる。

 ここの柄が悪い人たちがどういった服装をしているのかわかったものではないのだが、なんとなく柄が悪い気がする。言うなれば雰囲気だ。

 

 ゴルドーは店の前でタバコを吸っている人たちを気にすることなく、店へと入っていたので私も後を追った。


 店はこじんまりながらも、種類はたくさん置いているようだった。

 ずらりと、見たこともないタバコが並んでいる。が、本当にタバコだけで、葉巻やキセルといったものはなかった。


「いらっしゃい」


 白く長いひげを生やした店主は私たちに視線を向けず言った。書物にお熱のようだ。

 ゴルドーは店主の後ろにずらりと並べられたタバコをじっとみながら、


「ノイは何吸うんだよ」

「知った銘柄がないので、何とも」

「まじかよ。ここ揃えはいいはずなんだけどなぁ」


 そうはいっても、流石に別の世界のタバコは取り寄せてないだろう。

 何度見ても私の知ったタバコはない。あるはずがない。

 見た目が似たようなタバコならあるのだが。


 羅列された品々を見ていると、突如として脳に電流が走る。目眩がするほどの衝撃に、視線が止まる。

 一つのタバコの見た目に、見覚えがあった。いやというより、あるタバコにとても似ていた。

 緑のパッケージにコウモリのシルエットが二つ載ったタバコは、前の世界に確かにあった。


「え、……ゴールデン・バット?」


 咄嗟に前の世界のタバコの名前を口にしてしまった。

 何故この異世界に、現実世界のタバコがあるというのだ? ここには前の世界の物体が存在するのか?


「兄さん、そりゃシルバーバットだよ」

「シルバーバット?」


 なんだそりゃ、と思いパッケージを再度確認すると、確かにコウモリの上には前の世界のものと書体は変わっていないが「SILVER BAT」と書かれていた。

 一度は偶然とも思った。名前だけなら被ったりもするかもしれない。可能性はゼロとは言えない。

 しかしあのパッケージ。前の世界にあったゴールデンバットそのものではないか。


「あの、ゴールデンバットとかってあります?」


 ふとした思いつきを口にすると、店主は怪訝な目つきで私を見て、


「あんた学者さんか? そんなもの博物館にだってあるかどうかわかんないよ」


 と、嘲笑を含み言った。


「博物館、……というとそんな古いものなのですか?」

「そりゃあな。そもそもタバコなんて文化、英雄が持ってたゴールデンバットから始まったものなんだから」


 異世界の英雄が何故、前の世界のタバコを持っている?

 まてまて、ゴールデンバットは前の世界でもなかなかに歴史を持つタバコだ。

 確か、……明治から作られていて100年以上は歴史があったような。そんなタバコだ。

 それが、何故かこの世界に存在した。

 そもそもその英雄は何者なんだ? 前の世界のものをこちらに転送できるのか?


「あの、英雄について少し教えてもらえませんか?」

「おいおい勘弁してくれ。俺はまだ65だ、魔法大戦争には参加しとらんからあまり知らねえ」


 と、実際の年齢より少し老けたように見える店主は言った。


 異世界の魔法戦争。想像したくもないほど悲惨なものなのだろう。

 学校に通えば、魔法を簡単に勉強ができる世界だ。

 若者は戦争に繰り出され、魔法で殺戮の限りを尽くしたのだろう。嘆かわしい。 

 やはりどの世界でも、人というのは哀れな生き物のようだ。戦争を起こすことが、もはや本能とすら思える。


「数十年前魔法大戦争があったんです?」

「俺が生まれる、……10年前だったかな。たしかそうだったはずだ」


 この人が今65歳だから、75年前にこの世界で魔法大戦争が起こったのか。

 思ったよりも遠くない過去のようだ。


「ノイ、歴史の勉強はいいからタバコ選んでくれよ」


 後ろで待ちぼうけを食らっていたであろうゴルドーは腕を組みながら溜息交じりに言った。


「あ、あぁすいません」


 まぁ、歴史の勉強は後でいいだろう。少々引っかかることもあるが、今日はもう疲れた。

 過去、それも遠い過去の話を聞いたところで今の私には一つも役に立たないだろう。今日はサッと切り上げだ。


「じゃあその、シルバーバットをお願いします」

「ほいよ」


 そう言って、ゴルドーは自分のタバコとシルバーバットを購入し、私たちはタバコ屋を後にした。


「あ、火買い忘れた」


 私は、近くの宿へ向かう途中で足が咄嗟に止まった。


「お前も魔法覚えるんならいいじゃねえか」

「まぁ、それも確かに。でも上手くいきますかね」

「タバコの火くらいなら誰でもいける。俺でさえできるんだから」


 それはこの世界の住人であったのならの話だ。

 私は魔法が一切ない世界で生きてきたのだ。魔法の書で魔力に気づくなど本当にできるのだろうか。


 まぁそれは、試せばすべてわかることだ。考えるのはもうやめだ。


「じゃあ、とりあえず火ください」

「ファイア」


 ぼうっと小さな火がゴルドーの手のひらに現れる。相変わらず慣れぬ光景だ。


 シルバーバットをふかしながら、帰路につく。

 確かに、前の世界のタバコに似ているだろうか。いや、私はゴールデンバットを吸っていなかったので、確証が持てない。

 

 そんな確かめようのない煙の味を空にに吹き込みながら、私たちは宿に着いた。

 私はタバコに火がついたまま自分の部屋に直行し、ベッドに腰をかけ何とは無しに魔法の書を開く。


 当然白紙だ。どこをめくっても何も書かれていない。

 ミラさんが言うには、1時間ほど魔法の書に触れていると魔力に気づくと言っていたが、それは睡眠中も加算されるだろうか。


 色々あった。酒も入ったで私の瞼はくっつきたくてたまらないようだ。いや、もう限界だ。

 睡眠中がダメでも、明日1時間ほどぼうっとしてりゃいいんだ。もう眠いんだ。


 そのまま魔法の書を胸に抱え私は横になった。

 まるでその姿はさながら絵本を抱きかかえて眠る少女のようだろう。

 少女が夢見るような魔法の世界は、実のところ戦争が頻繁にあり白馬の王子よりも軍人を欲する世界であった。

 

 しかし、それでも多分生きていけるだろう。そんな気がする。

 ダメだ、もう思考もまともにできやしない。寝よう。

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