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プロローグ

十で神童十五で才子、二十歳過ぎればただの人。

今日俺は、ただの人になった。

周りが知恵遅れの白痴にしか見えず、見下していた。それは今も変わらない。

そうでなければ、俺に依頼が来るはずが無いんだから。

「…出番だ。穀潰しのお前にも世の役に立てる時が来たぞ」

「…へぇ、それはそれは。俺より優れた人間が居なかったってことだろ?」

「口を閉じろ能無し。…お前の模倣犯の様なものだ。徹底的に叩き潰せ」

「はいはい、分かりましたよっと。んじゃちょっくら、センパイが揉んでやりますか」

旧型のカプセルの中で横になる。ヘッドバンドを付けて目を閉じれば、その精神は電子の海の中へ。




『…続報です。十年前の大規模ハッキングの再来…国中の電子データが…』

つまらないニュースなぞ見たくない。お前らが騒ぎ立てたところで何が出来る?これは俺たちの復讐だ、誰にも止められやしない。誰の模倣でもない、オリジナルのやり方で。ノウハウなんか掴ませやしない。目の前で尻尾を出す真似もしない。頭の中で、鈴のような笑い声が響く。

「…真海」

いまいくから。そう呟いて、エンターキーを叩いた。

目を覚ますと、穏やかな平原。日差しは暖かく心地いい。

「お兄ちゃん!」

「真海。良い子にしてたか?」

「うんっ、お友達が沢山いたから寂しく無かったよ!」

「そうか。それは…良かった」

死者をAI化し、半永久的に存在させるシステム。会社によって名称は様々だが、主に幼い子供を喪った家族や、恋人を亡くした者たちに人気があった。

真海は、そのどれにも属さない、俺が独自に作ったAI。どの会社よりも精密に作り上げた真海は、生前の姿そのままだと、兄として断言出来る。俺のたった一人の家族で、最高傑作。

「誠、戻ってたのか」

「進司。任せて悪かったな。調子はどうだ?」

「各社でAIの様式が違いすぎて調整に手間取ってる。後で見てくれないか。そこさえ何とかしてしまえば、俺たち以外の生身の人間を投入しても問題は無いはずだ」

「分かった。見に行くよ」

「疲れているところ悪いな」

「なに、計画の為だ。問題ないよ。進司は休めるうちに休んでくれ」

「ああ。動画の編集がひと段落ついたら休むよ」

俺の共犯者。進司は欠伸をしながら姿を消す。現実世界に戻ったのだ。歳下ながら、この男をいっとう気に入っていた。真海の次に、と言っても過言ではないだろう。頭は切れるし、多くは語らず黙々と仕事をする。気遣いも忘れない。全人類こうならいいのに、と思わせる程だ。真海への恋心は兄たる俺にも察せる所はあり、今回はそれを利用させてもらって居るのだが…。それは良いだろう。

十で神童十五で才子、二十歳過ぎればただの人。ただの人になんて、大人になんて絶対にならない。俺たちはこのネヴァーランドで、永遠のときを過ごすのだから。

まずは、子供のAIのデータを全て吸収し、此方側へ引き摺り込む。死してなお、大人たちの玩具にされる哀れな子供達を、救ってやらなければ。

その次に、生きている子供達をこちら側へ連れてくる。子供達の肉体を人質に、買い上げた島へと集約する。そこには俺達が作った介護用のAIが完備されていて、身体の命尽きるまで、清潔に保たれる。現在の収容限界数は三千人。日本の子供の数は千五百三十三万人だから、全然足りない。仮に、約半数がこちら側に来ることを望まない『大人予備軍』だったとしても。到底間に合うような数では無かった。数々の特許や、動画サイトでの広告収入を合わせても、今はこれがまだ限界。維持費のことも考えると、数年がかりになる。更に治安のことを考えても、急いで規模を大きくするのは得策ではないだろう。

だから今は、これでいい。少しずつ、大きくしていって。最終的に全ての子供たちがしあわせな眠りにつくのなら、それで。

一度大きな伸びをして、中央の管制塔へと向かう。もうひと踏ん張り、しなくては。




数日後。SNS上や学校では大騒ぎだった。人気動画投稿者のプレゼント企画。『MAKOTO』が常時身につけているヘッドギアの同型を、抽選で配るというのだ。

『ねえねぇ昨日の動画見た!?』

『見た見た、ヤバいよね!絶対欲しい〜!』

『かっこいいよなぁ、アレ。付けて外は出歩けないけど』

『バッカお前アレ付けて出歩く気だったのかよ』

渋谷の町は多くの若者で溢れかえる。次の瞬間、あらゆる広告塔がジャックされ、MAKOTOの姿が映し出された。

『皆!昨日の動画は見てくれたか?』

きゃあ、と歓声で染まる街。フードを目深に被った進司は、一番大きな画面を見上げ、満足気に頷く。スーツ姿の男と肩がぶつかった事も気にならない程だ。いよいよ、始まるんだ。俺たちの大一番が!

『本当は全員にプレゼントしたいんだが…まだまだ足りない。それは申し訳ないと思っている。でもいつか、必ず皆の元に届けるから待っていてくれ!』

湧き上がる歓声、口笛。やんややんやと騒ぎ立てる若者達に背を向けて歩き出す。

この中の何人が『大人予備軍』なんだろう。慎重に選別しなくては。計画の崩壊になりかねない。




「手札は揃った」

サークルを囲む三人。同時に手をかざすと、光に包まれ、数人の子供達が姿を表す。AIの子供の何人かは歓声を上げる。生前の知り合いでも居たのだろうか。

何が起こったのか分からず、辺りを見回す子供たちを、誠はにこやかに歓迎する。

「ネヴァー・ランドへようこそ!」

誠の言葉で、子供たちは目を輝かせる。MAKOTOだ!本物だ!と叫ぶ子供に手を振って続ける。

「ここは俺たちの作ったネヴァーランド。望むものは手に入り、何一つ不自由のない理想郷。…でも、まだまだ足りないものは多い。」

「君たちは選ばれた。あのヘッドギアは、ここへと繋がる唯一の鍵なんだ。」

進司が続くと、子供のうちの一人が手を上げる。

「じゃあ、あの日言ってたいずれは全員に、って」

「そう。俺たちは全ての子供達をここに連れてくる。必ずだ。…今は友達と離れて寂しいかもしれないが待っててくれ」

「……」

「MAKOTOを信じるよ!だってMAKOTOに出来なかったことなんてないもん!」

「僕も信じる!」

「私も!」

「皆……」

出だしは上々。あとは、細かいデバックを行って、資金確保の後に規模を広げていくだけ。

「ありがとう。ここでは自由に過ごしていてくれ。なにか困ったことがあったら、俺たちに相談してくれれば、直ぐに対処する」

「分かった!」

「はぁい!」

進司と真海に連れられて、ぞろぞろと子供達が管制塔から出ていく。もう任せても大丈夫だろう。あの子達によってバグが見つかるまで、少し休もう。

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