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泡エンド確定ですか? ハッピーエンドはどこですか?

作者:

 二次創作です。原作はアンデルセン先生の『人魚姫』

「…………どうせなら次はハッピーエンドの世界に転生したかったのです。」


 ここは、ちゃぽんちゃぽんする水の中。なのに、苦しくないです。

 しかも、足は魚。もう、目を逸らしてはいけませんね。

 これは、どう見ても、人魚です、ありがとうございました…………。


 先程、要約すると「海の上行くなー? 人間に見つかるとマジヤバだから」とお父様から言われるシーンが終わった所でした。


「はーい!」


 と良い子のお返事して、今、海面。


 そして、船! 沈んでます! 王子! 溺れてます……


 ああ、やっぱりここからスタートなのですね。


(ここで彼を見捨ててしまえば………………)


 一瞬とても悪いことが頭をよぎってしまいました。


 そうしている間にも、きらきらと光る金髪と綺麗に整った顔が…………今はとても苦しそうに歪んで………暗い暗い海の底へと、沈んで行こうとするその体に、私は思わずぎゅっとしがみつくように………


(あっ)


 やっぱり今回()助けてしまうのでした。


 触れているところはまだ暖かく、どくんどくん鼓動を打っています。


(は、早く、水面より上へ出なければ!)


 水しぶきを上げて海面から顔を出します。海と同じくらい暗い空で、導くように静かに輝く星を見ながら、一瞬でも善からぬことが自分の心に浮かんだことを深く後悔しました。


 彼を抱えて泳いで、何とか浜辺にたどり着き…………。

 その頃には、日がのぼって、暖かくなっていました。

 ちゃんと呼吸をしているし、彼もやがて目覚めるでしょう。

 ここで、このまま、立ち去れば大丈夫。もう二度と会わなければ。


 彼のことなど綺麗さっぱり忘れて、私は、絶対絶対、運命に逆らうのです!


「けほっけほっ」


 と咳き込む声が聞こえ、つい振り返って戻ってしまい…………。


(あっ)


 目が合ってしまいました…………。


「君が…………」


 苦しそうに紡ぎ出す彼の声に、私は、はっと我に返って、海へ逃げします。が、


「待って」


 と声をかけられ、つい、止まってしまいました。すると、後ろから、ぐいっと腕が捕まってしまって、


(だ、だめー! ここで、会話しちゃったらこの先の展開に齟齬がー! 魔女さんがー! 魔女さんの出番がー!)


 私の心の中は大パニックでした。


()()()…………捕まえた。」


 と王子が優しく言いました。


「えっ」


 人間に捕まってしまいましたー! どうしましょう!

 しかし、そのまま、ぎゅーっと後ろから抱き締められて逃げられそうにありません。


「ありがとう。助けてくれて、ありがとう。本当に。」


 少し、震えているのは寒いからでしょうか。

 ぐっと抱き締める手にも力が入ります。


「い、いえ! いいえ、それより早く水から出ましょう……」


 慌てる私の声に、


「ふふ、綺麗な声だね。」


 こ、こんな時にー、な、軟派な人ですか! あ、難波な人でしたね、って、だれがうま(ry

 恥ずかしくて水に潜りたいのに、ぎゅっと抱きしめられていて逃げられないのですー!


「ごめんごめん。オレなら大丈夫。気にしないで。」


「あなたが気にしなくても私が気にしますー」


「っていうか、本当に人魚だー」


 と、尾びれを見ながら言います。


「ど、どうしましょう……」


 とおろおろしながらつぶやくと、


「ん?」


「お父様に厳命されていたのでした。決して、人間に見られてはいけない、と。」


 私の顔が青ざめていくのを、彼はじっと眺め、


「んー、大丈夫。何とかする。」


 と微笑む。


「何とか…… なりますか……?」


「何とかなるし、絶対してみせる。今は、ただ君だけを感じたい。」


 再び、抱きしめる手に力を入れ直します。


 ぎゅーっと抱き締められるのは、意外にも気持ちが良く、ずっとずっとそのままでいたいような気持ちになってしまいます。

 すると、ごーんごーんと辺りに鐘の音が響き、何だか、人が現れそうな気配がします。


「あ、あの!」


「ん?」


「ひ、人が…………」


 ざっざっと砂浜を歩く音やざわざわと話す声がします。


「大丈夫。」


 そして、発見された私たちは………………



<王子視点>


 彼女に再び出会うまで、本当に大変だった。

 オレが一度選択を誤ったせいで、こんなことになるとは。


 あの日、オレが誤った女性を選んでしまい、そして結婚し、全てが終わってからのことだった。


 命を救われ、恋をした女性が修道女だったとわかり、一度は結婚を諦めた相手…… それが、隣国の姫と知り、やっとねんがんの相手と結ばれた幸せにオレはひたっていた。

 しかし、心のどこかで、違和感があった。


 あの時、なぜ、オレだけ砂浜まで辿り着けたのか。


 当時、同じ船に乗っていた他の者は皆、行方不明となり、最早…………と諦められていた。


 「自分は幸運だった」


 と言い聞かせ、深く考えないようにしていた。


 妻となった女は、


「神様のお導きですわ。わたくしもご無事を一生懸命祈っておりましたもの。」


 と笑う。


「そうだな。」


 と応え、ふと気付く。


 彼女が助けてくれたのではなかったか……。


 ふと、妻によく似た、あのしゃべれない女がいなくなっていることにオレは気が付く。

 皆に聞くが、


「そういえば最近見ませんねー」


「お国に帰られたのでは…………」


 などと答えるのみで、彼女の行方を知るものは誰もいなかった。


 あんなに目立つ美しい女なのに誰の目にも触れずに……?


 妙に心がざわめく。もしかして、もしかしたら、オレは重大な過ちを犯してしまったのでは…………。


 オレは彼女の行方を探し続けるが、その間、妻とは何度も喧嘩となった。

 やがて、妻の心が離れていく。


 両親からは、お前が悪いと、行動を改めなさいと窘められる。


 そんなある日、魔女と名乗る者に出会った。


 そこで真実を知らされる。本当に、命を救ってくれた者の正体を。その者の行く末を。


 彼女の正体は人魚の国の末姫だった。

 彼女は、ある目的から人間になりたかった。その代償に、声と尾びれを失う。彼女の願い、想い人と結ばれなければ、泡となり消える運命。


 残念ながら、想い人との恋に破れ消えていったのだ、と。

 そして告げられる。


「その想い人とは、お前だよ。」


「っ!?」


 魔女は、オレの歪む表情を見ながら楽しそうに笑う。


「死ぬ前に、お前を刺し殺せば、人魚として生きられるとチャンスを与えたんだけどねえ、馬鹿な子だよ」


 くっくっくっと不気味な笑い声を上げる。


(そんな、馬鹿な…………すると、オレは…………オレは…………本当の恩人を…………)


「まあ、そのお陰で、良質な人魚の娘が大量に手に入ったのだし? お前には本当に感謝しているよ。」


 絶望して最早何も耳に入らないオレに、魔女は再び囁く。


「そうだねえ。お前に、何かお礼をしようかねえ。」


「お前の礼などいらん!」


「まあ、そうお言いでないよ。」


 絶対耳など貸すものかと思いながらもつい耳を傾けてしまう。


「後悔しているのだろう。だったら、お前を過去に戻してあげよう。そして、彼女と結ばれればいいさ。」


「何が目的だ。」


「おやおや、礼と言ったはずだろう?」


 魔女はクスクスと笑う。


「結ばれるまで、何度でも繰り返せる。しかし、それ以外に彼女と幸せになる手段はもう、ない。

 もちろん、お前には諦めることも可能だ。今度こそ彼女と幸せになるといい。」


 と。彼女と、幸せになる手段が、あるのなら。一度でも、想いを伝えられるのならば。


 オレは迷った末、わずかな未来に賭けて、「頼む」と答え………



 ………ここからが本当の悪夢であった。



 過去に戻れるからといって、必ず同じ展開になるわけではないようだった

 溺れる苦しい思いをして、そのまま沈むことも何度もあった。


 それでも、彼女に一目会いたくて、「ありがとう」と言いたくて、繰り返す。


 やがて、段々とわかってくる。


 オレの16歳の誕生日、時間、タイミング、方向など…………。


 やっと、オレの命が助かって、人間になった彼女と再び出会えても、周りには必ず従者がいて、あの時の礼を言うことすらできない。


 結婚しようとしても、必ずどこからか邪魔が入る。

 母親の反対を受けたり、それに反発し強引にすすめても、彼女が何者かに殺されてしまったり。


 暗殺を阻止しようもしても、どうやっても、結婚にはたどり着けなかった。


 最後の記憶は、結婚の誓いの直前だった。お互いに誓いを交わし、微笑み合い、認めてもらう寸前に彼女が殺害されたのは本当にショックで、次など、とはもう考えられなかった。


「くそっ」


 と喧騒と嬌声の中、教会の床を何度も拳で叩く。


 出来ることは全て試した。なのに! どうして!!!


 もう、出会わなければよかったのかと。

 次は過去に戻ったら、オレと出会わず、彼女が幸せに生きてくれれば、それだけで良い、と思い諦めようとした時、天からの声が届いたかのように、閃いた。


 あと一度だけ試してみよう………。


 オレは再び過去に戻り、何度目かの16歳の誕生日を迎える。そして、冷たい海へと沈んだ。


 チャンスは一度。陸に上がり、彼女が再び海へ帰るその時までの間。

 その短い時間に、彼女を逃さず、想いを伝えること。


 そうすれば………きっと。


☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・


 ごーんごーんと鐘の音が響く。

 二人の門出を祝うかのように。


 やっと、オレは、彼女との婚姻が正式に認められたのだった。


 始めこそ、人魚! 恐ろしい! と批判も多かったが、美しい姿や声に人々は魅力され、何より、その美しい心に救われた。


 海面も賑やかで、鐘の音に合わせて、彩りの魚が踊り、祝福するように跳ねる。


 この結婚をきっかけに、海の王と陸の王が手を組むこととなった。

 海底帝国との同盟により、この国は陸地でも領地を増やす。


 こうして、人間の王子と人魚の姫は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし。

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