77 今日も……お泊りが決定……
なんか、逃げそびれました。そんな気分なんです。
パーティーが終って富永氏にアパートまで送ってもらうはずが、「この服をどうしよう」と呟いたせいで、富永氏のマンションへと帰ってきてしまいました。
えーと、これで何度目かしら。富永氏のマンションに泊まることになるのは。それに、客間の一つはいつの間にか、私用の服でいっぱいになっています。それだけでなく、化粧品もいつの間にか揃えられていて、普通に困らない事態となっていますよね。
先にシャワーを浴びた富永氏から、お風呂に入れと言われてしまいましたし、ここは第二の我が家か! なんてツッコミを入れたくなりました。
お風呂から出たら富永氏がドライヤーを持ってきて、私の髪を乾かすのも何度目かしら? 慣れてきている自分が怖いわ。このブラシって……私用だから好きに使ってくれ? いいのかしら?
髪が乾きドライヤーを片づけた富永氏が、もう少し飲もうと言ってきました。思わず出してきたブランデーに目が釘付けになりましたよ。X.O.ですよ。それからグランド・シャンパーニュですよ。……これだから、ブルジョアは~!
でも、お酒に罪はないので、おいしくいただきます。氷を入れてブランデーを注いで、一くち口に含みました。
「う~ん、やっぱり違う~。美味しい~」
そんな私をジト目で見てくる富永氏。あれ? 私、何かしてしまったかしら?
そうしたら、富永氏は盛大にため息を吐き出してから言いました。
「普通、先に乾杯をしないか」
「へっ? 何にですか?」
「尾石にざまあを成功させただろう」
「おぜき? ……えーと、もしかして私、名前を言い間違えました?」
そう言ったら富永氏は盛大に笑いだしました。
「クックッ……お前、やっぱ……素で間違えたのか~」
「あはは、そうみたいです」
「ククッ……そうみたいって……本当は名前を覚える気がなかっただろう」
あら、バレていたのね。ひとしきり笑った富永氏は、最後に深く息を吐き出してから言いました。
「まあ、いいか。これで心置きなく口説くことが出来るからな」