75 ヒーロー登場! (笑)
彼は背後から声を掛けられて、バッと振り返りました。そこに立っていた富永氏を見て、驚きの表情をしています。
「富永さん……あっ、えっと、本部長。すみません、お待たせしてしまって」
「いや、いいよ。まだ大丈夫だから」
そう私に答えてから、ジロジロと値踏みするように彼のことを見る富永氏。彼は不快そうに眉を寄せると口を開いた。
「なんだよ、あんたは。邪魔しないでくれないかな」
「君は本当に話を聞かない奴のようだな。先ほどから駄々をこねて、彼女の妨害をしているのは君だろう」
「なっ! 駄々ってなんだよ。というか、これは彼女と俺の問題なんだ。関係ない奴は口を出すなよ」
富永氏の言葉に彼は咬みつくように言い放ちました。
「口を出す権利ならあるぞ。俺は茉莉くんの上司で、今から彼女をパートナーとしてパーティーに向かうところだ。君との話は時間がかからないからと、パーティー前にする許可を出したのは俺だ。これ以上無駄な時間を使わせないでくれないかな」
「グッ」と呻いて黙り込む彼。それに追い打ちをかけるように、富永氏は言葉を続けたのよ。
「あと、今まで散々彼女のことを蔑ろにしていたのだから、さっさと別れを受け入れたらどうなんだ?」
「なんで、あんたにそんなことを言われなきゃならないんだよ!」
そう叫んでから、彼はハッとしたように私のことを見てきました。
「なんだよ、そういうことかよ。俺よりも上の地位にいるからって、乗り換えたのかよ。最低な女だな」
そう言った彼のことをジロリと睨むと、富永氏は私の腕を引いて立たせました。私の肩に腕を回してから、彼へと言葉を言いました。
「あいにくと茉莉くんからは、これまで一度も色っぽい誘いは、受けたことはないんだがね」
私の頭のてっぺん辺りへと何かが触れました。……じゃなくて、富永氏にキスをされたんですよね、きっと。
「ちょっと、富永さん!」
つい、抗議の声をあげたけど、悪くないですね。富永氏は私に『まあまあ」とでもいうように、肩をさするようにしました。合った視線に、ドキリと胸がなりました。
「今までは君という名ばかりの彼氏に義理立てして、俺の誘いには全然答えてくれなかったんだ。これからは堂々と口説けると思うと嬉しいね」
もう一度髪に触れる感触がしました。……というか、富永氏。お店の中にいる人から注目の的なんですけどー!