74 はっきり言っても通じないって……
どこをどう取ったらこういう返しが出来るんだろう。呆れた視線を向けているのに、何を思ったのか、テーブルの上に乗せていた私の左手を握ってきた。
「このあともパーティーに行くんじゃ、気疲れするだろう。終わったら連絡をしてくれ。今日はたっぷり甘やかしてやるよ」
……ちょっと、なんでそうなるわけ? 視線に甘さを込めているつもりだろうけど、下心が透けて見えて、気持ちが悪いんですけど。
俺、いいこと言ったとか思ってるわよね。その顔は。私の台詞のどこを取ったらそうなるのよ。……そういえばこの人って、私の話を聞かないところがあったわよね。今までも、自分の都合を押し付けてきただけだったし。
ああー、もうー、めんどくさくなってきたかも。遠回しに言うのをやめて、さっさと終わらせてしまおう。
「手を離してくれませんか。恋人でもない人に、握られたくないんですけど」
「もしかして、今まで放っておいたのが悪かったのか。そこは反省しているからさ」
……通じないのかよ。もう、いいかな。捨て台詞を吐いて去ってしまっても。お店の壁にある時計をチラリと見て、時間もあまりないことを確認する。
「悪いけど、時間がないからもう行くわ。これからは連絡をしないでくださいね」
「ちょっと待てよ。話は終わってないだろ」
立ち上がろうとしたのに、掴まれていた手を引っ張られて座り直すことになりました。
……こんのー! さっき時間がないと言ったでしょうが! 先方には少し遅れると伝えてあるけど、大幅に遅れるわけにはいかないんだぞー! あんたも営業でアポイントの時間を守る大切さはわかっているんじゃないの? まさか、パーティーを娯楽と捉えているんじゃないでしょうね。
ジロッと睨みつけたら、こいつはポカンとした顔をして私のことを見てきた。
……あっ。口に出して喋ってしまったみたいですね。それなら、もう一言いえば自覚してくれますかね?
そう思って口を開こうとしたら、近づいてきた人がいて、私より先に口を開きました。
「まったく、茉莉くんの言う通りだな。我々の社交を遊びだと思われているとは嘆かわしい。社交も大事な仕事なのだがな」