73 理解ができない話し方は、していないと思うのですけど……
私の言葉に呆けた顔をする彼。こんな言葉を言われるとは思わなかったみたいです。……じゃなくて、本当に時間がないので、ドンドン進めてしまいましょう。
「お付き合いを始めた当初は私のほうはお時間をとれたのですけど、あなたのほうが忙しい時期でお会いすることがなかなか出来なかったですよね。そして最近、あなたがお会いしたいと言われるようになりましたら、私のほうが忙しくなりました。今日もこのあと、本部長とパーティーに出席しなければなりませんので、このような格好で来させていただきました」
「えっ?」
彼は言われたことが飲み込めないのか、またもや「えっ」と言っています。
「このように時間が取れない状態が続くのであれば、お付き合いしている意味はないですし、無理やり時間を捻出してまで会いたいとは思いませんので、お付き合いをやめたいと思います。安達さんは私にはもったいないくらいに、素敵な方ですので、お別れしてもすぐに新しいお相手が現れると思います。私にこれ以上付き合う必要はないと思いますけど、どう思われますか?」
「えっ? えっと、あの」
彼は目を白黒させて、私に言われたことを飲み込もうとしています。……というか、これぐらいのことを瞬時に判断できないとは、それまでの方だったということなんですね。
「大石さんは……俺と別れたいと思っているということかな」
やっと言われた言葉がこれですか。少し遠回しな言い方にしましたけど、あれでは理解していただけなかったようですね。
「ええ、もちろんです」
「どうしてそんなことを言うんだよ。今までは仕事が忙しくて、連絡が出来なかったのは悪かったと思う。これからは会えるように時間を作るから、別れるなんて言わないでくれ」
私はため息を吐きそうになって、何とか飲み込みました。代わりに呆れた視線を向けます。
「話を聞いていませんでしたか。私のほうが忙しくなり、時間を作れないと言ったのですけど。無理に会う時間を作るくらいなら、家でゆっくり休みたいんです」
本音をはっきり言ったのに、返ってきた言葉に呆れてしまいました。
「疲れているのなら、俺が癒してやるよ」
でしたから!