68 誕生日に関することで……
「いつだ?」
「30日です」
今日は誕生日の2週間ほど前だから、彼からの誘いのタイミング的には早くも遅くもないだろう。それよりも彼が私の誕生日を覚えていたことに驚いたというか、困惑したというか。
私の戸惑っている姿を見て、富永氏が聞いてきた。
「大石はどうしたいんだ」
私はすぐに答えられなかった。それをどうとったのか、富永氏は眉間にしわを寄せて言った。
「お前はこいつのほうがいいのか。ゲスなことしか考えてないこいつと、誕生日を過ごすつもりか」
「そんなことをしたいと思うわけないじゃないですか。……でもちょっとだけ、考えたことがあるだけなんです」
俯きながら小声で付け加えてしまったら、顎に手が掛かり顔を持ち上げられた。まるで逃さないとでもいうような目で見つめられて、疾しいわけではないのに視線を逸らしたくなる。
「何を考えたんだ」
「……言わなきゃダメですか」
「言ってくれなければわからないだろう」
逃してくれない人だと改めて思いながら、私は観念して口を開くことにした。
「えーと、言いますけど、呆れないでくださいよ。私は今まで、誕生日は家族か友人としか過ごしたことがないんです。だから、異性の人に誕生日を覚えられていたということに、少しだけ嬉しく思ったんですよ」
富永氏は目を瞬いたあと、呆けた顔で私のことを見てきた。……イケメンってずるい。呆けていても、格好いいなんて。
「えっと、それは?」
「もう、いいですよ。笑いたければ、笑ってください。誕生日を覚えられていて誘われたくらいで嬉しがるような女ですよー。チョロいならチョロいと言ってくれていいですから!」
やけ気味に言ったけど……言ってて虚しくなって泣きたくなってしまったのでした。