64 凹ませ損ねたかも……
「そういうことなので、本部長について、他の会社の役員の方々とお会いしなければならなくて、約束ができないのです。ドタキャンになってもいいのでしたら、約束してもいいですけれど、しばらくは二人で会うのは無理ですから」
『そんなに本部長といるのがいいのかよ。お前、どう思っているんだ、そいつのこと』
「えっ、本部長のことをどう思っているかですか? そうですね、すごく出来る方ですね」
『出来るって。……お前、そいつに惚れたのかよ』
「はっ? そんなことがあるわけないじゃないですか」
『どうだかな。俺より出世しそうなやつだから、乗り換える気なんだろう。仕事は出来るかもしれないけど、気の利かないお前なんか相手にされるかよ』
「そういうことを言うのでしたら、時間が出来ても会いたいとは思いませんから。ええ、こちらからは連絡はしません。そのつもりでいてください!」
通話を切ると、そのまま電源も落としてしまう。私はしばらく黒くなった画面を睨みつけた。
「どうかしたのか」
声を掛けられてハッとした。作戦では本部長付きなのをバラして、ついでに富永氏と彼との差をわからせるような発言も混ぜて、穏便にしばらくは時間が取れないだろうから会えないと言うはずだったのに……。電話をかける前にきていたメッセージにイラついていたから、尚更過剰反応をしてしまったのだろう。
富永氏のことを見たら、心配そうに見つめていた。どうやらひどい言葉を言われたと思っているようだ。
「大丈夫です。とにかく、しばらくは連絡が来ても、無視する方向でいきましょう」
「……何を言われたんだ?」
「いや、特には?」
「疑問形で答えるんじゃない。なんか、嫌なことを言われたんだろう」
「えーと、ゲスの勘繰りです」
「奴がゲスなのはわかっているから、何を言われたのか教えろ」
えーと、これはどうするべきなんでしょうか?
そばに富永氏が寄って来るので、つい立ち上がり逃げてしまった。そうしたら追いかけて来られて……いつもの壁ドン&顎クイをされてしまいました。
「教えろよな!」
と!