閑話 嫉妬で我を忘れそうになるなんて……
涙が滲んできた眼で彼女に見上げられて、一気に冷水を浴びせられた気分になった。
泣かせたいわけじゃない。まして、怯えさせて嫌われたいわけでもない。
すんでのところで鼻にキスをして誤魔化した。離れる時目を丸くして見つめてくる彼女が可愛くて、つい笑いが漏れた。
それが良かったのか、彼女の体から力が抜けるのが見て取れた。背中に手を当てて起こしたら、彼女の目から涙が流れだした。頬に手を添えて親指の腹で払ったが、涙が止まる気配は見えない。
そっと抱きしめて謝罪を口にする。華奢な体は俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう。仕事の時の毅然とした彼女と違って、あまりにも頼りなく思った。
こんなことをしておいて、好きだなんて言えないよな。
だけど、少しでも気持ちが届けとばかりに、愛おしいと思っている気持ちを込めて、額や髪の生え際にキスをした。それと、彼女が落ち着くようにと、睦言にならないように言葉を選んで囁くように話した。
気がつくと彼女は体を預けるように眠ってしまっていた。眠ってしまった彼女を抱き上げて、客間に運ぼうとして、待てよ、と思う。目覚めた時に一人でいて、眠る前のことを思いだしたら……。
嫌われてしまうかもしれない。
先ほどのことは危機感のない彼女に対する警告だと思ってくれたと思う。……たぶん、そう思ったのだろう。そうでなければ襲おうとした男の腕の中にいないだろう。
少し考えて、目覚めた彼女を別のことで動揺させることにした。彼女を横たえるとタオルケットを持ってきた。彼女の体にかけてやり、そばに座ると起こさないように頭を持ち上げた。腿の上に頭を乗せて彼女が起きなかったことに、ホッと息を吐き出した。
「う~ん」と呻き声が聞こえて、ぎくりとする。彼女はコロリと横向きになるように転がった。そのまま、また眠ってしまったようで、寝息が聞こえてきた。どうやら寝にくくて向きを変えただけみたいだった。