閑話 意識されていない……から、暴走を
あれはゲスいことを考えていたのだろう。手が怪しい動きをしていたから……。
別に俺はのぞき見をしていたわけではない。たまたま彼女たちが向かった人気が無い方向から、エレベーターホールへと向かおうとしただけだ。それが二人でこちらへ来るのだから、焦って隠れてしまったのだ。
あいつが考えたことは、手に取るようにわかる。彼女が着替えた服は、ブラウスは襟ぐりが広く開いていて、鎖骨が綺麗に見えた。それにスーツは体にフィットしたもので、ボディラインがよくわかるものだった。
今まで彼女が着ていたものは、体型がはっきりしにくいものが多かった。だからわからなかったのだろう。それがあのスーツのせいで、彼女の魅惑的なボディラインを知ってしまった。
あの歓迎会があった金曜日以降、彼女には『とりあえず連絡してるぞ』的なメッセージを、毎日送ってくるだけだったそうだ。それでも彼女に言わせれば、週一のメッセージが毎日来るようになっただけで、「マメですね」だ。
それが彼女の本当の姿に気がついたら、あの後からしつこいくらいにメッセージを送ってきやがった。あれは本気で落としに来ているのだろう。
あいつの思惑に気がつかない彼女は、ただ嫌そうにしていた。一応注意喚起でいろいろ言ってみたが、彼女は本気で自分が狙われていると思っていないようだった。
その様子になんか、腹が立ってきた。理不尽にも「俺と二人きりなのを、何とも思ってないんだよな」と、言いがかりをつけるように言ってしまった。
言ってから気がついた。こいつに自分は男として認識されていないことに腹が立っていることに。
気がつくと、彼女を床へと押し倒していた。
あいつのことは『彼氏』などと、一応男扱いしていた。なのに、あれだけ毎日、キスするくらいの距離まで近づいているこの俺を、認識しないのはなんなんだ。
彼女を組み敷きながら本音が漏れた。
「気持ちよくして、快楽に落とすのもありか」
それもいい手かもしれないと思った。この3週間。彼女のそばに一番居たのは俺だ。あんな奴に先に奪われるくらいなら、俺がすべて奪ってやる。
そう思って顔を近づけていく。嫌がるように横を向いた彼女の顎を掴み、上を向かせた。