59 呆れられて、怒らせ……た?
富永氏は私の不機嫌な様子に、苦笑を浮かべていた。携帯を返してくれながら、こういったのよ。
「というか、こいつは馬鹿なのか。これだけ返信が来ないのなら、何か用事で携帯に触れないか、出られない事態になっていると考えるだろう」
「出られない事態とは?」
「携帯が壊れたとか、最悪の場合は相手が倒れたとか」
そこまで言ってから、富永氏は眉を寄せて私に訊いてきた。
「大石、こいつはお前の家を知っているのか」
「えーと、知らないと思います。いつも、最寄りの駅で別れていたので。もしかしたら、私が使っている路線も知らないかもしれないですよ」
そう言った会話はなかったなと、思い出しながら答えた。
「それなら、よかった」
安堵の様子を見せる富永氏。
「えーと、でも、家を知っていたとしても、わざわざ来たりしないでしょう」
そう答えたら、富永氏は呆れた視線を向けてきた。
「お前はどうしてそう危機感がないんだ。あいつはお前を襲う気満々なんだぞ。家を知っていたら、手っ取り早く終わらせようと、来るに決まってんだろ」
「またまたー。もともと賭けで私と付き合いだしたんですよ。好みでない女相手じゃ、たつモノもたたないと思いますけど」
笑って答えたら、何故か富永氏は半眼で睨むように私のことを見てきた。
「お前は本当に男ってものをわかってないな。前々から思っていたが、俺と二人きりなのを、何とも思ってないんだよな」
「なんともって、何を思えというんですか。あっ、迷惑をかけているとは重々承知していますよ」
そう答えたのに、富永氏はまだ剣呑な雰囲気を醸し出している。
「本当にお前は俺のことを男として見ていないんだな」
「男としてって……うわっ」
富永氏が近づいてきたと思ったら、私は床へと押し倒されたのでした。