58 メッセージが……引く……
富永氏は私の髪を乾かし終わると、ドライヤーを片づけてコーヒーを入れて持ってきてくれた。今は甘いものが飲みたい気分だったのでそれを言うと、砂糖とミルクを入れてきてくれた。
「ところで、昨日もメッセージが来ていたんじゃないのか」
「あっ、そうでした。一昨日のメッセージにもまだ返事を返してないんですよ。昨日もピコピコうるさくてマナーモードにしたまま忘れていました」
携帯を開いて「げっ!」と、淑女にあるまじき声が出た。スクロールしていくと、メッセージの多さと時間を見てげんなりした。
「どうした」と富永氏が聞いてきたので、そのまま携帯を渡した。富永氏は受け取ると、画面をスクロールさせていった。見終わった富永氏の口元に歪んだ笑みが浮かんだ。
「さっさと賭けを終わらせたいみたいだな。それとも金曜に久しぶりに顔を見て、本気になったかだな」
「冗談はやめてくださいよ。私と顔を合わせたからこそ、早く終わらせたいと思ったんじゃないですか」
ムッとしながら返事をする。それと共に、金曜日のことが思い出された。
金曜は午後からの会議と、その後の役員との会食が朝の時点でわかった。私も一緒に行動することもわかったから、そのつもりで仕事を片づけていったのよ。
で、久しぶりに他の課の友人と昼食を外で食べて戻ってきたところで、彼と顔を合わせたのよ。富永氏に会うなと厳命されていたけど、これは仕方がないよね。二人で出掛けたわけでもないし。
だけど、顔を合わせて会ったのがいい機会だと思ったのか、彼は私を他の人が余りいない方へと連れて行った。
まあね。会社内では付き合っていることは内緒になっていますものね。
それで、終業後に食事に行こうと誘われたのさ。でも、予定が入っていたから断ったのね。
そうしたら何を思ったのか、メッセージを次々と送ってきたのよ。
『どれだけ遅くなってもいいから、会えないか』から始まって、『美味しいカクテルが飲めるバーを知っているんだ』だの、『今まで放っておいて悪かった。仕事が……って、言いわけにしかならないな』や、『ちゃんと恋人らしいことをしよう』まで。
魂胆がわかっているから、その一生懸命さに、正直……引くわー。