57 お嬢様気分?
食器の片づけは富永氏がしてくれると言った。その間にシャワーを浴びておいでとも、言われたのよ。客間に戻り……えーと、そういえばなんで新品の下着まで、春菜さんはこちらに持たせてくれたのだろう。今更ながらに、謎である。
でも、今はそれがありがたい。突然のお泊りでも、着替えがあるのって助かるよね。……そういうことにしておこう。
お風呂を出て、髪を拭きながらリビングに戻ったら、何故か富永氏にソファーに座れと言われました。あれ? ドライヤーなら自分でしますよ。
はい? 昨日のお詫び、ですか?
いや、でも富永氏は何もしてないですよね。
はっ? 母親を止められなかったのが悪いですか?
いえいえ。春菜さんより凛香さんに連れ回されたんですよ。
……えーと、それじゃあ、自分の気が済まないと。
……はあ、それではお願いします。
富永氏は丁寧に髪を乾かしてくれました。……なんか、なんかね。こういうのって、美容院でしてもらうくらいじゃない。それよりも丁寧に扱ってくれるのよ。
えーと、なんかさ、妙な気分になってきちゃったわ。こんな、傅かれるなんてね、お嬢様になった気分なのよ。これで、紅茶をトレイに乗せて持ってきて、片膝ついてサーブなんてされたら……。
って、何を考えているのよ、私は。
でも、これでわかったわ。富永氏はきっと恋人には、すごく甘やかすのよ。あの切れ長の目を甘く蕩けさせて見つめて『好きだよ、茉莉』って囁くんだわ。
……えっ? あれ? なんでこんなことを思うわけ?
富永氏が私のことをそういう目で見ているわけないじゃない。あまりに不甲斐ない私のことを、見るに見かねて手を貸してくれようとしているだけだって。
そうよ。そんなことがあるわけがないのよ。