51 課内の士気
さて、これで味を占めたのか、何故か資料作成の仕事が、私のところに回ってくることになりました。彼女たちの言い分は。
「大石さんもいろいろ覚えたほうがいいと思うの」
まあ、課のみんながどんな営業をしているのかが、わかるからいいんだけどさ。なので、文句を言わずにやりますよ。
でも、私は課長付きなため、いつもここにいられるとは限らない。午前のほとんどは課内にいるけど、午後は課長と共に移動するのだ。それがわかっているからか、彼女たちの頼み方が巧妙だったりする。課長が側にいない時を狙って頼んでくるんだよね。
まあ、いいんだけどね。……というか、私がここにずっといると、彼女たちは思っているのだろうか? 確かに部長が紹介した時に、私のことは異動してきたとしか言わなかった。期限付きだとは言っていない。でも、課長付きなことと、課長の行く先についていくのだから、私がここにずっといるとは思わないだろう。
思ってないよね?
少し怪しみだした金曜日。私は課員の話を立ち聞いてしまった。
「今週は残業が少なくて助かったわ」
「本当~。先々週なんて、早くて20時でしょ。22時を過ぎた時なんて、泣きたくなったわ」
「あ~、これも課長のおかげよね。課長の采配がいいのよ」
「そうよね~。やっぱ、出来る男は違うのねー」
「はあー。今週はすごいよな、お前。もう2軒も契約を取ったんだろ」
「たまたまだよ」
「たまたまじゃないだろう。なあー、人心掌握のコツでも掴んだんじゃないか」
「そんなことないって。しいて言うなら、資料が見やすくなって、説明もしやすくなったからかな」
「あっ! 俺のとこも。なんかさ、資料が見やすいんだよ。これって、課長の指導のおかげかな」
「あー、多分」
「課長、かっけーよな。俺もあんな風になりたいなー」
「お前じゃ無理だろ。でも、本当に恰好いいよな。俺、課長みたいになれるように頑張ろうと思うんだ」
「おー、俺もー」
私は立ち聞きしたことを気づかれないように、そっと離れた。課長のおかげだとみんなは思っているようだ。確かに課長の采配は上手いと思うもの。
うん。士気が上がるのはいいことだ。もう少し、様子をみて……そうね、3か月目に入ったら、みんなに自覚を促すことにしましょうか。