閑話 攻め時は……いつなんだろうか
つい離れがたくて、いろいろと理由をつけて夕方まで引き留めてしまった。調子に乗って「夕食を」と言ったら、とても冷ややかな視線が彼女から返ってきた。
仕方がないので、タクシーを呼んで彼女を帰すことにした。彼女が泊り用に持ってきたバッグを持って、リビングに顔を見せて「パンはどれをもらっていいのですか」と言った。
母にパンはいらないと言っていたから、もういらないのだろうと思っていたのに、どうやらこの部屋のパンを減らすためにそう言いだしたようだった。
そのことになかなか思い至らなくて、俺は少しの間呆けてしまった。
「パンをくれるのですよね」
少し強い言い方に『処理しきれないと言ったじゃないかー』という、副音声が聞こえた気がした。俺はニヤケそうになる口元を隠して、冷凍庫からパンを出した。彼女が、冷凍庫からでいいと言ったからだ。
自分のことが嫌になる。こんな気づかいをさせてしまうなんて……気づかいから母に拒絶する言葉を……いや、違ったな。俺が困っていることをはっきりと母に分からせてくれた。母もやっと気がついてくれたようだ。……というか気がついていたのなら、もっと早くに止めろよな、親父!
だが、あとで母に彼女がコーンパンを好きなことを伝えようと思った。彼女を気に入った母に、一緒にパンを作ることを提案したらどうだろうか?
俺は彼女の服が置いてある客間に入っていった。彼女は気がつかなかったようだけど、この服の中には、母が昨日買ってきたものが含まれていた。よっぽど彼女のことが気にいったのだろう。
母には申し訳ないけど、彼女も母のことを信頼したようだから、口説き落すための材料にさせてもらうさ。
先ほどの彼女の顔を思い出す。タクシーに乗り、家に帰れると安堵した顔をしていたから、なんか癪で、つい額にキスをしてしまった。されたことに驚いて目を見開いて固まっていた。
全然、これっぽっちも、男として意識されてないことはわかっているさ。1年なんて待てないからな。3カ月で落としてやる!