46 帰りの車は私が運転します
「それじゃあ、どうしたらいいのかしらね」
電話が終るのを待っていたように、春菜さんが言った。車を置いていくのは邪魔になるということなのでしょう。
「私が運転して富永氏のマンションまで戻ります」
「まあ、いいの」
「はい。私もそろそろレンタカーを借りて運転したいと思っていましたから」
「あら~、茉莉さんは車を持っていないのね」
「そうなのです。通勤には使いませんし、駐車場を借りて置いておくのも無駄になりますから。それなら月に2回くらいレンタルした方が、安くすみますし、運転も忘れませんから」
そう答えたら、春菜さんがにっこりと笑った。
「じゃあ、ちょうどいいじゃない。茉莉さんに運転してもらって帰りなさいね」
富永氏に口を挟ませずに、話はついてしまいましたとさ(笑)
富永氏は少し渋りましたが、おとなしく助手席に座りました。挨拶をして滝浪邸を後にしました。2週間ぶりの運転に私の気持ちは上がりました。
「運転がうまいな」
隣からボソッとした声が聞こえてきました。なんか不機嫌そうです。……これはあれですかね。男が運転するものだとでも、思っているとか?
「運転をするのは、嫌いではないですから」
この言葉だけじゃフォローにならないかと思い、もう少し言葉を足すことにした。
「富永氏の運転はへたではないですよ。長年の習慣により癖になっているだけです。すぐに日本での運転に慣れると思いますよ」
しばらく何かを考えていた富永氏が「それなら」と、言った。
「大石の言う通りにこっちでの運転に慣れるためにも、なるべく車に乗った方がいいんだよな」
「そういうことになりますかね」
「それじゃあ、来週は少し遠出をするから付き合え」
「はっ?」
「こんな情けない状態なのを、他のやつに知られるのは嫌だからな。知っている奴に付き合ってもらった方がいいだろう。それも運転がうまいやつなら尚更だな」
丁度信号が赤で止まったので、私は助手席のほうを向いた。富永氏はいいことを思いついたというように、口元に笑みを浮かべていた。
……私は、『そこまで付き合う必要はないでしょ』と言いかけて、口を噤んだ。どっちにしろ3か月間は春菜さんにお世話になるのだ。富永氏には一昨日から世話をかけている。付き合うことでお礼になるのなら、それでいいかと思ったのでした。