45 友人の鈴音
私はお礼に続いて挨拶をして、電話を終わらせようと思った。
「じゃあ、またね」
『ああ、待たな……おい! ……ガサガサ 茉莉、ひどいわ。輝君と話せても、私とは話したくないのね』
どうやら国松君は電話を奥さんの鈴音に奪われてしまったらしい。
「そんなことはないよ、鈴音」
『うそ! 最近はちっともうちに来てくれないじゃない。やっぱりニートの私とじゃ、会いたくないのね』
恨み節気味に言われてしまった。最近は二人目を妊娠して悪阻が酷いと言っていたから、会いに行くのを控えていたのが、悪かったようだ。
「ごめんね。こちらも少し忙しかったんだ。近いうちに行くから、それで許してよ」
そう答えたら、すぐに『私こそ、ごめん』と返ってきた。
『少しね、ネガティブになりがちなのよ。みんなは働いているのに、私はー、ってね』
「何を言うのかな、鈴音は。子供を育てる以上に大事なことはないでしょう。それよりね、悪阻はどうなの。治まったかな」
『うん。なんとか。ただね、今はメロンが食べたくてどうしようもないんだよね』
「あら。それはお安いものでもいいの」
『赤い果肉でなければ、小っちゃいもので十分かな』
「わかった。手土産はそれにする」
『えー、悪いよ。そんなつもりで言ったわけじゃないもの』
焦ったようにいう鈴音の声は、電話を奪い取った時より明るくなった気がする。
「いいから、いいから。いつも愚痴を聞いてもらうんだから、聞き料を兼ねてね。それじゃあ、近いうちにね」
『うん。待ってるね~』
通話を切って顔をあげたら、生温かい目で見つめられていました。……いかん。友人との会話だと、素を出し過ぎたのかもしれない。