4 秘書ではない私
「あー、皆、こちらの富永克明君は海外支社を渡り歩いてきた強者だ。ひとまずこの課の課長をすることになったが、3カ月と期間限定である。だが、その後もこの課と関わることになると思うから、心するように」
戸塚部長が説明しにくそうに、富永氏のことを紹介している。富永氏は軽く頭を下げただけだ。
「それから、こちらの大石茉莉さんもこちらの課に移動してきた。基本は富永君の補佐をすることになるが、よろしく頼むな」
私も部長の挨拶と共に、頭を下げた。課員の視線が突き刺さるようだ。想定はしていたけど、あからさまな蔑みの視線に、内心辟易とした。
本来なら、本部長として役員室にいるべき人は、なぜか一課長をすることになっていた。せっかく海外の現場を渡り歩いてきたからと、本社の本部長ではなくて現場を見たいとのたまわった結果らしい。
なので、本部長付きの秘書である私も、必然的に課長専用の事務方として、ここに来たわけだ。
私はこの会社に入った時には、最初は総務に配属された。その後引き抜かれて秘書課に移ったことは、社内の人間なら大体知っている。なので、先ほどの蔑みの視線を寄越した人は、私が何かをやらかして降格したと思っていることだろう。
富永氏と私の席は少し離れていた。富永氏は課員が見渡せる向きの机。私はその前のいくつか並んだ中の、課長に一番近い席。同じ班の人に「よろしくお願いします」と挨拶したけど、「よろしく」と目を合わせずに返事を返された。
まあ、これは想定内なのだよ。うん。