43 自動車学校に通うための許可……を
さて、これで問題が無くなったと帰ろうとして、大問題が残っていたことに気がつきました。それからついでなので室長に話して許可をいただいてしまいましょう。
「えーと、室長、ご相談があるのですけど」
「茉莉さんからの相談ですか。どんなことでしょうか」
心なしか室長が嬉しそうに聞いてきました。
「あの、就労時間内になってしまうのですが、自動車学校に通うことをご許可いただきたいのですけど」
室長は珍しくも一瞬呆けた表情を見せました。すぐに真顔に戻すと聞いてきました。
「それは終業後に通うことでお願いします」
「それができそうにないから、相談していますが」
「でも、確か茉莉さんは運転免許証を持っていましたよね」
「はい、持っています」
「それなら通う必要はないでしょう」
「あっ、通うのは私ではないです」
そう答えたら、室長の冷たい視線が富永氏へと向きました。
「運転の仕方も忘れたのか、お前は」
「違います! 技術云々ではなくて、交通事情の違いのせいです」
室長の冷たい言葉に富永氏が言い返す前に、言葉を割り込ませることに成功しました。案の定、室長は面食らったように、私のことを見てきたのです。
「交通事情?」
「はい。ハンドルの違いはもちろんですが、車線も逆なので、昨日はかなり慎重に運転をなさっていました。今はいいのですけど、これからは社用車で移動の場合もありますよね。ご自分で運転できないのは困ることになると思いませんか」
室長は「う、う~ん」と考えこんでいた。なので、私は畳み掛けるように言葉を続けた。
「自動車学校に通うと言っても、免許を取るためではなくて、日本を離れていた間の道路交通法の変更などと、日本の道路に慣れてもらうためです。そういうことですので、通う回数もそんなに多くないと思います」
しばらく考えていた室長は「確かに日本と外国とは違うからな」と、呟くように言ったのでした。