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閑話 彼女について

「なんだ、ちゃんとわかっているじゃないか」


 父が少し見直したというように言い、席を立った。すぐに大きい封筒を持って戻ってきて、俺に渡してきた。見ろ、ということなので、中身を取り出してみてみる。


「……これって、社外秘じゃないのか?」

「別に書かれていることは、秘密でもなんでもないだろう」


 まあ、確かにそうだ。それは彼女の履歴書だった。たぶん入社試験の時に提出された物だろう。書かれていることは別に特筆するべきものはない。資格も自動車免許が今時珍しいマニュアル車で取っていることくらいか。あとは、事務職向きの資格が並んでいた。


 これがなんだと父を見ると、父は彼女を秘書課に連れてくることになった事件について話し出した。



 彼女は入社して研修が終わると、総務課へと配属された。総務課では親しい友人もいて、先輩たちとも仲が良く、他の課のギスギス感が全然ない、和気あいあいと過ごしていたそうだ。


 それが彼女が入社して一年近く経つ時に、会社内でインフルエンザが流行した。一番被害が大きかったのが経理課だったそうだ。仕事に出てこれる人が2人しかいなくなり、仕事が回らない状態になった。そこで、各課から応援を回してもらい、急場をしのぐことになったそうだ。大体は入社してから3~5年経った人が送られたのだが、数字に強いということで総務課からは彼女が来たそうだ。その言葉は伊達ではなかったらしい。溜まった伝票の山の半分は彼女が処理したようだ。

 インフルエンザの流行がひと段落して通常に戻ったところで、経理課から彼女が欲しいと話が出て、年度が替わったら移動となるはずだった。


 それが秘書課に移動ということになり、かなり経理課と総務課から、突き上げがあったんだと。


 彼女が秘書課室長である父に目をつけられることになったのは、偶然の出来事だったそうだ。たまたま昼食から戻った彼女は受付嬢が困っているのに気がついて話しかけ、お客様を案内してのけたという。それもドイツとイタリアの方々を。


 彼女の履歴書にはドイツ語やイタリア語を話せるとは書いていなかった。後日話を聞いたら、彼女は習ったのではなく日常会話程度しかできないから、記載しなかったというが、英語とフランス語、スペイン語、ポルトガル語まで話せると知ったら、秘書課に移動は当たり前だよな。


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