閑話 親父と会話
母が彼女を連れて部屋を出て行った。黙った父が廊下の様子を伺うようにしているので、俺も口を噤んで父の様子を見ていた。完全に彼女がこの部屋に戻ってこないと確信してから、父は口を開いた。
「それで、お前は昨夜、茉莉くんを部屋に連れ込んで、嫌がる彼女にあんなことやこんなことをしてないだろうな」
「彼女のどこを見たら、そんなことをされたように見えんだよ。というか、俺を信用する気はないのかよ」
言うに事欠いてそれかよ、と思いながら反論をしたら、チッと舌打ちを打つ父。
「結局ヘタレか。この2週間で意識もしてもらえんとは。無駄にいい顔しているんだから、それをフル活用しろよな」
「いや、それはおかしいよな。どこの世界に息子に襲うことを勧める親がいるんだよ」
忌々しそうに言われて、本気でムカついてきた。大体彼女が俺付きになるように画策したのは父達だろう。
「だーれが襲えって言っているって。お前は馬鹿か。普通に恋愛に持っていけって言っているだけだろ。やっぱ、お前にゃ期待するだけ無駄だったな。34歳まで独りもんなのは、伊達じゃないわけだ」
まだ、悪態をついてきやがる。仕事場では丁寧な口調で、柔らかい話し方をする人だけど、普段はかなり口が悪い。それも機嫌が悪いと尚更取り繕いもしなくなる。
さっきからなんなんだと思う。言われていることは理不尽に近いよな。俺は怒っていいんだよな。
「うるせーな。それより彼女はなんなんだよ。無自覚天然にしては、いろいろおかしすぎるだろ。告白されたのが初だからって、コケにしようと考えている奴のことを、見抜けないとは思えないんだけど。それになんで今まで誰とも付き合ったことがないんだ」
この2週間、彼女のことを見ていて思ったことを言ってみた。そうしたら、父の眉が少し下がり、口元に笑みが浮かびやがった。
これはなにか裏があると、俺の勘が告げたのだった。