40 壁ドンの……進化系? -壁ドンからの囲い込み-
お風呂をいただいてリビングに顔を出したら、まだ室長と富永氏はいがみ合っていた。……というか、いがみ合うというよりも、富永氏が室長を無視している感じですかね。春菜さんは相変わらず困った顔をして、室長と富永氏のことを見ていた。
「おやすみなさい」とあいさつをして、客間へといこうとしたら、何故か富永氏がついてきた。部屋に入るところで、腕をつかまれた。
「今日は悪かった」
何に対しての謝罪なのだろうと、首を軽く傾げて富永氏のことを見上げた。視線がばっちりあったら、何故か「うっ」と、言葉を詰まらせた富永氏。左手を壁につけて……右手の置き場所に困ったように、躊躇いがちに顔の横に手が来た。
えーと、これって、壁ドン……じゃないよね。両手を壁につけて囲うようにするのって、何というのだろう。
問うように見つめていたら、富永氏の顔が近づいてきて……左肩に富永氏の額が当たった。なんか小さな声で呟いたようだけど、よく聞き取れなかった。
「えーと、あの……これって、壁ドンの進化系ですか」
そう言ったら、「ぐっ」という、呻き声のようなものが聞こえてきた。心なしか、肩に重みが加わった気がする。しばらくそのままでいたら、「はあ~」とため息が聞こえてきて、富永氏は顔をあげた。
なんだろう。何かを諦めたような表情に見えるのだけど?
「これは……壁ドンからの囲い込みだ」
富永氏が説明してくれたけど、声に疲れが見えた。すみませんねー。そういうことに疎すぎて。
ここで、ハタッと気がついた。なので、富永氏に訊いてみることにしよう。
「課長、質問いいですか」
「……なんだ」
なんか、嫌そうな顔をされてしまったんだけど。でも、疑問は解消した方がいいよね。
「メイクとファッションを教えていただけるのはいいのですけど、壁ドンなどはなんでされるのでしょうか。最初は私の反応を見ていたと思うのですけど、もうそうする意味はないですよね。進化系まで教えてくれるということは、このあと振る時に役立つということなのですか。でも、こんな状況になるとは思えないのですけど……って、あれ?」
富永氏はガクリと肩を落としてしまっている。……なんか、また落ち込ませてしまったみたいだった。