39 今日もお泊り……
春菜さんに案内されてついたところは、和室でした。床の間があるから、客間かしら?
「今夜はこちらで休んでね」
春菜さんは押し入れから布団を出してくれたので、シーツと布団カバーをセットするのを手伝いました。それを何故か、うふふっと笑う春菜さん。
「やはり女の子はいいわね」
そういえば富永氏しか子供はいないんだった。
……と、私は富永氏のあれこれを思い出していた。彼もいろいろと複雑なんだよね。まだ課の人たちには……もとい、会社の人にはバレていないようだけどね。念のために富永を名乗っているんだもの。バレたら昨日の歓迎会以上に女性たちに囲まれることだろう。
そんなことを考えていたら、春菜さんは押し入れから紙袋を取り出して私に渡してきた。
「よかったら、使って頂戴ね」
渡されたものは……どうみても、春菜さん用に買ったとは思えないパジャマと下着。もしかして用意してくれたのですか?
えっ? 実は富永氏と歌舞伎に行かせたのは、私を嵌める罠だったんですか?
「あの後ね、お出掛けをしたのよ。それでね、つい茉莉さんに似合いそうだな~って思うものを見つけたのね。そう思ったら我慢できなくなってしまって、買ってしまったのよ」
そう言ってニコニコと笑いながら、春菜さんは他にも袋を出してきました。……なんだ。女の子がいないから、私にこれが似合いそうと、レッスンの延長で思ってしまったのですね。
……じゃない!
「えーと、いただくわけにはいきません。なので、買い取らせてください」
「まあ、そんなことを言わないで。私ね、娘に選んでいるようで楽しかったのよ」
眉尻を下げて私を見てくる春菜さんに、母の姿が重なった。大学に入り家を出た私が実家に帰ると、必ず新しいパジャマを用意してくれた。
目を伏せた私は心の中で呟いた。「お母さん」と。