36 お家で飲み会と見せかけて……
私の答えになぜか春菜さんは不満そうでした。……どこを間違えたのか教えて欲しいけど、それを聞いたら藪蛇のような気もする。なので、おとなしく私は話しながら、お酒で喉を潤していました。
春菜さんが満足して黙ったら、室長がおもむろに口を開きました。
「ところで、昨日は二人の歓迎会だったのでしょう。何やら小さなトラブルがいくつかあったと聞いています。それを教えてくださいませんか」
私は手に持っていたグラスを置くと、背筋をピシッと伸ばしました。その様子を富永氏は驚いたように見ています。……けど、そんなことは知るか。優し気な言い方だけど、それを真に受けちゃいけないんだ。室長は表情を変えずに鬼畜なことをするんだぞ。
流石に口には出せないから、富永氏のことはなるべく視界に入れないように、体ごと室長のほうを向いた。
「何をお聞きになったのかわかりませんが、トラブルと言えるほどのことはありませんでしたよ」
「ほうー、歓迎会の主役の一人に、歓迎会自体のお知らせをしなかったことは、トラブルではないと」
背中を冷や汗が伝わっていく。やはり知っているではないかー。それでも、お約束を口にしてみる。
「えー、私の都合が合わなかった、と」
「それにしては克明に捕まったとはいえ、二次会にまで参加していたのだよね」
……なんで、そこまで知っているんだ?
「大石茉莉さん、君の仕事をしたまえ」
「……いまはプライベートな時間ですよね」
最後のあがきを言ってみる。
「そうだけど、ここほど他人に聞かれる心配がないところはないだろう」
その言葉に私はガクリと肩を落とした。こうなると、昨日のことから何まで、室長と富永氏が仕組んだことでは無いかと思えてきた。
なので、富永氏のことを伺うようにみたら、室長と私のやり取りに本当に目を丸くしていたのでした。