35 デートでの疑問をぶつけてみた
そんなことを考えながらも、つまみをパクパクと食べていく。つまみが美味しいとお酒が進むよね。
「ところでデートはどうだったの?」
春菜さんに訊かれて、シャンパンの次に飲んでいたワインを気道に入れそうになって、むせてしまった。……明らかに私に向かって訊いてきているので、富永氏は助けてくれる気はないみたいだ。
「えーと、一応楽しめました」
「あら。息子のエスコートは駄目だったのね」
「いえ、十分なエスコートだったと思います」
「本当かしら」
「えー、……多分?」
「ほら、駄目だったのでしょう」
春菜さんに言われて、私は困ってしまった。比較する対象があれしかないから、あれに比べたら十分だと思うのだけど……。
「あっ!」と、思わず声をあげたら、春菜さんが「何かしら」と身を乗り出すように聞いてきた。
「あの、デートの時は男の人がお金を払うものなんですか?」
私の言葉に問いただすような視線を富永氏に向ける、春菜さんと室長。富永氏が何か言う前に、私は今日思った疑問を口に出した。
「今日のデートは慣れていない私のレッスンなんですよね。それなら、逆に授業料を払わないといけないではないですか。男の人の矜持のために百歩譲ったとしても、靴の代金まで払ってもらうのは違う気がするのですけど」
春菜さんは私の顔を見て、富永氏の顔を見て、また私へと視線を戻した。
「えーとね、茉莉さん、私が息子に靴を買うように言ったのよ。だからね、靴の代金のことは気にしないで頂戴ね」
にっこりと有無を言わせない笑顔で言いきられてしまい、私は返す言葉が無くなってしまったのでした。
そして、なんでかデートの様子を根掘り葉掘り聞かれ、私はそれを何故か焦りながら答えたのでした。