32 ちゃんとしたデートって男の人が支払うんですか?
ランチを食べ終わりお店を後にする。ここも富永氏が払うと言ってきかなかった。う~ん、食事が絡むデートって、割り勘が当たり前じゃないの?
お店を出てゆっくりと歩きながらウインドウショッピングをしながら聞いてみた。……というか、ちょっと興味を示しただけで、お店に入ろうとしないでください。買う予定がないものは、外から見るだけで十分です。そうしたら。
「それは男に甲斐性がないからだ」
と言われた。かいしょう……? ああ、甲斐性ね。そう言うものなのかしら。
一瞬納得しかけたけど、そうじゃないと思いだす。
「食事はそうかもしれませんけど、靴は違いますよね」
「別にいいだろう。レッスンの一部だと思って男に金を払わせろ」
「いえいえ、それはおかしいです。レッスンだというのなら、こちらが授業料を払わないといけないでしょう」
「だから、奢られるのがデートなんだ」
「デートではなくてレッスンです!」
思わず大きな声を出してしまい、何事かと周りから視線が集まってしまった。富永氏は「行こう」と、さりげなく背中に手を当てて私に歩くように促した。私も注目の的になっているのは恥ずかしいので、素直について行く。なのに。
「本当に強情だな」
と、ポソリと隣から声が聞こえてきた。ムッとして言い返そうと思ったら、「ほら、ここだ」と、歌舞伎座の前についた。まだ時間がかなり早い。どうするのだろうと見上げたら。
「資料館があるんだ。覗いてみないか」
と言われた。なので、資料館に寄ることになり、先ほどの言い合いはうやむやになってしまいました。……というか、私が展示された資料にくいついてしまったのよ。うん、いろいろ忘れてしまうほどにね。
そして、気分が高揚した私は、そのまま歌舞伎を楽しんだのでした。