31 デートであ~んは当たり前? -あ~ん 間接キス-
私は口元に愛想笑いを浮かべた。
「でも、先ほどからお店にいる人たちが、富永氏のことを見ていますよ。やはりハンサムは違いますね」
私の言葉に富永氏は目を瞠った。それから眇めるように私を見てきた。
「お前は、自分が見られているという自覚はないのか」
「私をですか? どうしてです」
えーと、また呆れた視線を向けられました。もう、何度目かしら?
「自分の服装やメイクを思い出してみろ。普段の仕事モードと違って可愛くなっているだろう」
「可愛く……」
言われ慣れない言葉に、頬に熱が集まってくる。それにちょうど店員さんが料理を運んで来たので、富永氏が言ったことは聞かれてしまっただろう。恥ずかしさに俯いてもじもじとしてしまった。
「ナポリタンとグラタンです。お熱くなっておりますので、お気をつけてお食べください。コーヒーはすぐにお持ちいたします」
店員が離れると富永氏は「さあ、食べよう」と言った。フォークを持つとナポリタンをさっさと食べだした。けど一口目を飲み込んで「うまい」と言ったの。
なんとなく、スプーンを持ったままその様子を見ていたら、ナポリタンをフォークに巻き付けて差し出してきた。
「えーと、これは?」
「味をみたいんじゃないのか?」
逆に聞かれてしまった。あまりに見つめていたから、食べてみたいと思われたのね。
「えーと、自分で食べますけど?」
「フォークはこれしかないぞ」
言われてみれば、箸箱の中には箸しか残っていなかった。どうしようかと富永氏をみれば、にっこりと笑顔が返ってきた。
「ほら、あ~ん」
「あ~ん」
つられて口を開けたら口の中にフォークが入ってきた。ナポリタンを歯で挟むようにしたら、フォークを引き抜かれた。そのままもぐもぐと咀嚼した。甘めのトマトソースが麺に絡んで美味しい。麺ももっちりしているし。富永氏が「うまい」と言いたくなったのもわかる。
私もお返しにグラタンを掬って差し出したら、「先に食べてからで」と言われてしまった。そういえば味を見ていなかったと、先に口に入れた。思っていた以上に熱くて、口の中を火傷しそうになった。
なので、富永氏に差し出す前に、ふう~ ふう~と、息を吹きかけて冷ますようにした。富永氏は口に含んですぐに「これもうまい」と笑顔を見せたのでした。