30 なんか……落ち込ませてしまったみたい
お店を出て、まだ開演まで時間があるからランチを食べようということになった。一本裏通りの昔からある老舗のお店に連れていかれた。ここって、喫茶店よね?
ナポリタンとグラタンとコーヒーを頼んで、くるまでの間チケットを取り出して時間を確認する。
「これって夕方からなんですね。もう少しゆっくり出てきても、よかったかもしれないですね」
そう言ったら、呆れた視線を向けられた。
「一応デートだって言っただろう」
「デートレッスンなんですよね?」
確認を込めて聞いてみたら、呆れた視線が返ってきた。これは言わなくても解れということでしたか。富永氏はため息を吐いた後。
「レッスンの部分は、いまは忘れろ。それよりも周りからどう見られているかを、気にしたらどうなんだ」
言われてお店の中に視線を移す。二つ離れた席の女性たちが、小声でこちらを窺ないながら話している。他にもカップルや店員までもがチラチラとこちらを窺っている。私は視線を前に戻し……。
そういえば富永氏は将来有望の是非とも手に入れたい出世頭だったっけ。
マジマジと顔を見つめてしまったら、怪訝な顔をされてしまった。
「俺の顔に何かついているか」
「いえ……はい」
微妙な返事をしたら「クッ」とまた笑われてしまった。
「どっちなんだよ」
「あー、いえ、その、すみません。改めて見てみまして、ハンサムだなと思いました」
なんか富永氏の肩がガクッと落ちたような気がするけど。もしかしてずっこけました?
「お前、今まで俺のことをなんだと思っていたんだ」
「えっ? 壁ドンや顎クイを毎日してくる、変な上司」
あっ! ストレートに言い過ぎた。富永氏は頬がひくついて変な笑顔になっている。えーと、フォローをしないと。
「えーと、でも、仕事は出来ますよね」
「……当たり前だ」
「えーと、えーと、普段は仏頂面だけど、面倒見はいいです。……それから、女性にもてる」
この2週間を思いだしながら言ったら、不機嫌な声が聞こえてきた。
「それのどこがフォローになっているんだ?」
あら?