29 デートレッスン
私は春菜さんに言われるがままにバッグの中身を入れ替えた。
「脱いだ服とこのバッグは後で届けてあげるわね。あとは靴が不満だけど、そこは克明、わかっているわよね」
「ああ」
春菜さんの言葉に笑顔で頷く富永氏。
「車で行くの」
「いや。駐車場とかわからないし、デートなら酒を飲む場合もあるだろ」
「まあ♡」
ん? 語尾にハートマークが飛びませんでしたか?
「それじゃあデートレッスンに、いってらっしゃい!」
と、送り出されました。……ん? デートレッスン? なんだ、これもレッスンの一環なのね。
春菜さんの言葉に、若干気が楽になった私。いつの間に頼んだのか、タクシーが門のところにいて乗り込んだ。
「銀座に行ってくれ」
歌舞伎座って銀座にあるのかと思って、私は黙って座っていた。なのに降りた目の前には、有名ブランドの靴屋。そのまま腕をとられて店の中へ。
私が何か言う前に富永氏がお店の人に「この服に見合った靴を」と言った。心得た店員が、私をスツールに座らせると、あれこれと靴を持ってきた。それを見た富永氏が「これよりもう少し薄い色で」とか「このバッグに合わせた物でも」とか、交渉をしてくれている。
あれ? 普通は私が交渉するんじゃないの? ……というか、ちょっと待ってよ。先ほど店の中に並べられた靴の値段を見たんだけど、明らかに金額がおかしくない。私の給料で……払えないことはないけど、ボーナスは貯金にまわせないことが決定するじゃない。
富永氏が選んだ靴を履いて立たされる。何足か履き替えて、決まりました。そのまま履いていくことになり、私が履いていた靴は、何故か最後に迷ったもう一足と共に、富永氏のご実家に送られることになった。
支払いはもちろん富永氏持ち。カードでサッと済ませてしまった。
「ま、待ってください。私が自分で払います」
いかん、早業に見惚れていた。……慌てて財布からカードを取り出そうとしたら、大きな手が財布を押さえて止められた。
「こういう時は男が払うもんなんだよ」
そういうものなのかー。と、私は感心したの。