23 とんだ高スペック野郎
私は憮然とした顔で、ソファーでクッションを抱いて座っていた。
大笑いを始めた富永氏は右手をお腹にあて、左手は壁についたまま私の肩に頭につけるような感じに、体を曲げて笑っていた。その様子を唖然と見ていたけど、何かが頭の中に引っかかった。
「壁ドン……顎クイ?」
「なんだ、思いだしたのか?」
笑いながらも、切れ切れにそう言う富永氏。
「あー!」
思いだして叫んだ私に、もっと大笑いをしてくれやがりましたよ。富永氏は!
それからトイレを済ませた後、シャワーを浴びました。ちゃんとバスタオルと……なぜかバスローブが用意されていたけど、バスローブは使いませんでしたからね。
シャワーを浴びながら、私は昨夜のことを完全に思いだした。出来れば穴を掘って隠れたいけど、そんなことが出来るわけがない。それに反省はいつでもできる。
それよりも、問題は『マイフェアレディ計画』よ。あいつらに意趣返しをするのは面白そうだけど、化粧やファッションに関しては低スペックなのはわかっている。化粧はみっともなくなければいいと、マスカラやアイシャドーに気合を入れたことはない。
洋服だって、秘書としてみっともなくないように、お店の人に相談して(というより勧められるまま)購入をしているのだもの。
で、私が憮然としているのは、シャワーを浴びて出て、とりあえず最低限の身だしなみ(もちろんお化粧も!)を、整えてからリビングへと行ったら、朝食が整えられていたことなの。海外生活が長かったからか、パンやサラダ、ソーセージにスクランブルエッグ、スープにコーヒーと揃えられていて、『こんの高スペック野郎!』と思ったからなのよね。
これで「こんなもので悪いな」って、嫌みか。