22 何もなかった……朝 -壁ドン&顎クイ-
目を覚ました私は、どこにいるのかわからなくて、ボーッとベッドの上で体を起こして座っていた。
自分の家ではないのはわかった。けど、今日は土曜日だから仕事の心配はない。だから、何も心配はいらないのだ。
そう結論付けた私は、ベッドから這い出して、扉を開け……ようとして、鍵がかかっていることに驚いた。客間に鍵がかかるような部屋に住んでいる人って、知り合いにいたっけ?
そんなことを考えながら部屋を出た。トイレはここかなと、あたりをつけて扉を開けたら……洗面所だった。それだけでなく先客がいた。
「か、課長―!」
顔を洗ったのかタオルで拭いていた人は、「おはよう」と、爽やかな笑顔を向けてきた。それから訝しそうに私のことを見つめてきた。
「お、おはようございます」
裏がった声であいさつを返したら、ますます訝しそうに私のことを見てきた。
「大石、どうかしたのか」
「あっ、いえ、その……」
私がどもっていると、何かに気がついたのか富永氏は言ってきた。
「ああ、そうだったな。朝食を用意する間にシャワーを浴びるか。それが一番いいな」
「はいー!」
また裏返った声が出た。えっ? えっ? シャワー? 朝食? 作るの? 誰が?
私のことを尚更訝しんだ富永氏は、私のそばに一歩近づいた。つられて私も一歩下がった。眉を寄せてもっと近づいてくる富永氏。私はそのまま後退を続けて、背中に何かが当たった。手の平で触ると、どうやら壁みたい。
横に向いて廊下の壁だと確認をした。その私の顔の横に富永氏の左手が突っ張るように置かれた。それに視線を向けたら、顎をクイッと持ち上げられた。
「大石?」
目を覗き込むように見つめてくる富永氏。その瞳に狼狽えまくった私の顔が映っている。
「もしかして、昨夜のことを覚えてないのか?」
必死にコクコクと頷いたら、富永氏の顔がクッと歪んだ。そして……思いっきり大笑いをされたのでした。