閑話 無自覚な彼女
閑話は克明の心情です。
笑ってください。
彼女が部屋に入り、扉に鍵がかかった音を聞いて、ちょっぴり残念に思ってしまった。未練たらしくしばらく廊下にいたけど、鍵が開く音は聞こえてこない。諦めてリビングに戻り、マグカップやコップを片付けた。
一瞬頭をよぎったことに、変態にはなりたくないと首を振ってその考えを追いやった。
自室に戻ってベッドの中に入ったけど、壁を隔てた隣の部屋に彼女がいるのかと思うと、今夜は眠れるかどうか、自信がなくなってくる。
あの様子じゃ、絶対気がついてないよな。
こんな気持ちになるとは思わなかった。
やはり親父たちに文句を言って、男の秘書に変えてもらうんだった。
思惑に乗せられるのは嫌だ。
いろいろな思いが浮かんできては消えていく。つい昨日まで思っていたことも、いまとなってはもう手遅れだろう。
親父たちが認めた様に仕事は出来る。歓迎会に群がってきた女たちのように、男漁りをする様子は見えなかった。仕事に真摯に取り組む姿に好感が持てた。キリッと仕事をこなす姿は格好良くこの目に映った。
それがなんだ。酔うとトロンとした目になって、おねだりするように見つめてくるだなんて。飲み過ぎだと止めなきゃいけないのに、あの目で見られたら止められなくなってしまった。結果、足腰が立たなくなった彼女を、介抱すると称して自宅に連れ込んでしまった。
抱き上げた体の柔らかさとか、いい匂いがしただなんて……言ったらひかれるか?
彼女は……全くの好意からだと、疑っていないようだ。というか、なんなんだよ。あの警戒心の無さは。床ドンされて焦った俺がバカみたいだろう。あのまま彼女が顔を寄せてくれるのを期待しただなんて……言えないよな。
それに化粧をとっても変わらないって、どんな奇跡なんだ?
あーもう、とにかく月曜からは課のやつらが彼女に近づかないように、目を光らせておかないと。一応そばに居られる理由はあるしな。
恋に……落ちたほうが負けなんだよな……。
補足……というか、克明の行動について、ちょっとね。
> 一瞬頭をよぎったことに、変態にはなりたくないと首を振ってその考えを追いやった。
これは茉莉が残したコーヒーを飲もうかどうしようかと、逡巡したことです。
間接キスをしようかと考えて、変態行動だと思って止めました。
です(笑)