21 お泊り……ですな
視線をさまよわせていた富永氏は、壁の一点を見てから私の顔から手を離した。
「かなり遅い時間になったな。そろそろ休むことにしようか」
富永氏は立ち上がると、私の着替えが入ったバッグを手に取った。私も立ち上がり彼についていく。彼が扉を開けた部屋はどちらかというと殺風景。ベッドとサイドテーブルしか置いてない。
「ここは客間だ。えーと、あー、あった。いま、シーツをセットするから、大石は洗面所で着替えてこい」
バッグを押し付けるように渡されて、廊下に戻された。自分でやると言い出せる雰囲気ではないから、おとなしく洗面所に向かおうとした。
「そうだ。シャワーを使おうとするなよ。明日の朝に入ればいいからな」
と、声が追いかけてきた。「はーい」と気のない声で返事をして洗面所へと行き、持ってきたパジャマに着替えた。ついでに歯も磨いてから洗面所から出た。
扉を開けて私はビクッとなった。目の前に腕を組んだ富永氏がいたから。
「歯ブラシも持ってきていたのか」
感心したように言われたけど、もちろん旅行用のグッズの中に、いれておりますとも。先ほどの部屋へといこうとしたら、彼が持っていたミネラルウォーターを渡してきた。
「一応、もっとけ。あと、その部屋は鍵がかかるようになっているから、部屋の中に入ったら、ちゃんと鍵をかけるんだぞ」
私が部屋に入るまで、そこから動かない富永氏に「えーと、おやすみなさい」と声を掛けて部屋へと入った。扉が閉まる前に「おやすみ」と聞こえてきた。
鍵をかけて着替えの入ったバッグを床に置いた。なんか気が抜けて、へたり込みそうになってしまった。慌てて足を叱咤して、ベッドの中へともぐりこんだ。
けど、すぐにベッドから降りて部屋の灯りを消しに扉のそばへと行った。明かりを消して、薄暗い中をベッドへと戻った。
体を横たえて……口元に笑いが浮かんできた。
本当に今日はなんて日だ。部屋に連れ込まれて何もされないって。
……いやいや、彼は紳士なのだよ。飲み過ぎて歩けなくなったのを心配してくれただけだって。手を出されないことがつまらないだなんて……。
気のせいよ。うん。