20 マイフェアレディ計画って……-頬ムニムニ-
なんか、変なことを言いだされてしまった。綺麗になった姿を見せつけて振る? どうやって?
そう思っていたら富永氏の右手が伸びてきて、私の頬に触れた。そっと撫でてくるけど……なんでだ?
「顔立ちは悪くないって言っただろう。それにちゃんと手入れをしているから、肌も綺麗だ。あとはメイクのしかたと服のセンスをどうにかすればいいだけだ」
左手も顔に伸びてきて、顔を挟み込むようにされた。というか、ムニムニと頬を揉まないでくれないかな。
「そうだな、この計画を『マイフェアレディ計画』と、名付けようか」
「マイフェアレディって、映画のタイトルですよね」
「なんだ、知っているのか」
「タイトルと内容を少しだけ」
「そうか。まあ簡単に言えば普通の女性を上流階級で通用する女性に教育するって話だよ」
「かなり端折ってますね」
「そう言うってことは、もう少し詳しく知っているんだろうな」
「えーと、オードリー・ヘップバーンが出ていたことと、ミュージカルが元だったことと、確かレッスンで訛りを直すんじゃなかったですか」
富永氏は驚いたように、私の頬を揉む手を止めた。
「君は映画鑑賞が趣味なのか」
「違います。うちの両親が映画好きだったんです。なので、見たことはなかったですけど、知ってはいました」
富永氏は少し残念そうに私のことを見てきた。もしかして彼は映画好きなのだろうか。
「それなら君はどんな映画が好きなんだ」
「映画はあまり見ませんね。というか、ほとんど出かけませんから。テレビもあまり見ないですし」
なんか富永氏の視線に憐れみのようなものが混じった気がする。これは無趣味で楽しむものなんてないと思われたかしら。
「言っておきますけど、趣味はちゃんとありますよ。落語を聞いています」
「落語? それはまた……」
言葉を途中で止めたけど、渋いと言いたいのかしらね。