168 創立50周年パーティー その3
「……であるからして、これからの我が社の発展に……」
社長……挨拶が長いです。いや、こういう場では、当たり前の長さですよね。
社長の挨拶は、続けて来年度から始まる新規事業の説明へと入った。
「……ということで、里碕工業との技術提供による新規事業に伴い、新しい部署を立ち上げることとなった。そこに関する人事などは、また追って沙汰を出すこととする」
意外とあっさりと説明は終わりました。
会場内は途端にソワソワしだしました。給仕の方々がトレイにグラスを持って動き始めましたからね。もうすぐ乾杯をして、食事となるのですもの。会場の横のほうには、次々と料理が運ばれてきて、美味しそうな匂いを漂わせていますし。
「さて、ここで予定にはなかったことだが、とても目出度いご報告をさせて頂きたいと思う。この度、私の次男である克明と、新規事業の提携先の里村社長のお孫様である、大石茉莉さんとの婚約が相成った」
ザワザワ
会場中が大きなざわめきに包まれました。私は里村の祖父に手を取られて、浮島社長の横に並んだ克明さんの横へと連れてこられた。祖父も私の隣へと並んだ。
「偶然にも大石茉莉さんは我が社に入社していて、私の秘書をしてくれるほど優秀な人で、海外から戻った克明の秘書として、この数か月支えてくれていた」
ギリッ
思わず奥歯を噛みしめてしまったけど、何とか口元の笑みは消さずに済んでいるみたい。
「大和撫子を体現するような茉莉さんに、克明が惚れて口説き落とすのに苦労をしていた」
……おい! そんな内情はいらんだろ。
横目で浮島社長を見て、殺気を飛ばしてやる。
あっ、凛香さんがとても冷たい視線を社長に向けていますね。
それに気がついた社長は、慌てて取り繕いだした。
「ゴホン。ま、まあ、とにかく、縁があり婚約を結ぶこととなった若い二人を、これからよろしくお願いいたします」
その言葉を合図として、私と克明さんは同時に頭を下げたのでした。
そして、この流れで副社長である克明さんの兄、優輔さんが乾杯の音頭を取ったのです。
もちろん言葉は。
「これからの我が社の発展と、ご来場の皆様のご多幸と、何より婚約を結んだ二人の明るい未来に、乾杯!」




