165 速攻許可って……
思わず、ジッと祖父のことを見た。……ううん。素直に言おう。祖父のことを睨んだのよ。
ちゃんとご挨拶をしようとした克明さんの言葉を遮って、言うに事欠いて「遅い!」だなんて。
私は向こうを出た時も、ここへ到着する30分にも、連絡を入れたのに。渋滞に引っかかって予定より遅れたわけではないのよ。
克明さんも面食らって、言葉に詰まってしまったわ。
「お父さん、いきなりそれでは彼も茉莉も面食らってしまうでしょう」
「だがな、私は本当に待っていたのだぞ。仁美だってな、楽しみにしていたんだ。それが……」
言葉を詰まらせて目に涙を浮かべる祖父。……というか、仁美って母の名前よね。なんで亡くなった母の名前が出てくるわけ?
「里村、気持ちは分からないでもないが、まずはちゃんと挨拶を受けよう。そうしたら早急に決めなければいけないことがあるだろう」
父方の……大石の祖父が、里村の祖父へと宥めるように言った。
意味がわからなくて、そっと克明さんのことを窺うように見たら、克明さんも私のことを見ていた。
(なにこれ?)
(私もわからない)
アイコンタクトでの会話。でも彼に答えられるものはなくて、私の瞳には困惑の色が浮かんでいることでしょう。
フウ~と、誰かが息を吐きだしたので慌てて前を向いた。と、横から声がかかった。
「まあ、今更挨拶もないだろう。滝浪克明君、ようこそ来てくださった。里村が君の挨拶を台無しにしたので、悪いけど割愛させてもらうよ」
「あっ、はい。……いいえ、その、一ついいですか」
「なんだい」
「私のことはご存じのようですね」
「ああ。たぶん君がおもっている以上にご存じだよ。まずはこちらの結論というか、……なのだけど……君と茉莉の交際を許可しよう」
「……ありがとうございます」
狐につままれた気分で、克明さんがお礼を言うのを聞いていた。
……というか、許可がいるものなの? 結婚の許可ならわかるけど。……いやそれも、親に許可を求めるのならわかるけど、なんで祖父に許可を求めなきゃいけないわけ?
釈然としないながらも一応私も頭を下げた。
「それでだな、その……交際に当たってというか……結婚の条件というか……」
歯切れ悪く大石の祖父が口籠る。
「結婚?」
ますます意味がわからない。なんで、結婚という言葉が出てくるのよ。
「これからのことについて、私から話させてもらうよ」
そう、後ろから声を掛けられた。そこには思いがけない人物がいたのでした。




