163 邪魔者は……
「あ~、よかった~。出てくれた~」
明らかにホッとした声に、ムッとした声が出てしまった。
「何の用なのよ、拓士」
「うん、ごめんね。本当にさ、悪いと思っているんだ」
明るく言いながらも、声は震えている。……何かあったのかしら?
「どうかしたの? こんな時間にかけて来るんだから」
「あー、そのね、悪いんだけど、スピーカーにしてくれない?」
何故か焦ったように言葉を遮られてしまった。怪訝に思ったけど、一応言われたとおりにしてみる。
「したわよ」
「えーと、茉莉ちゃんの彼氏さん? そこにいるんでしょ。初めまして。茉莉ちゃんのいとこの里村拓士といいます」
「……初めまして、滝浪克明です」
私は克明さんの名乗りに、思わず彼の顔を見つめてしまった。……そうでした。拓士になら、名字を隠す必要はないのでした。
「あのー、本当にすみません。邪魔をしたくてしたわけではないんです。えー、でも、というか、確認なんだけど、最後までいってないですよね」
「なっ、何を言うのよ! 拓士―!」
拓士のぶしつけな質問に、顔を真っ赤にして怒鳴ってしまった。……というか、なんでいとこにそんなことを言わなきゃならないのよ。
憤慨して文句を言おうとした私の耳に、安堵した声が聞こえてきた。
「よかったー。ギリでセーフだったみたいじゃん」
「はっ?」
「茉莉ちゃん、それから滝浪さん。申しわけないんだけど、今日はそれ以上に進まないでね」
「何を言いだすのよ、拓士」
「うん。言いたいことはわかるけど、先に僕の話を聞いて。じい様からの伝言だよ。『明日、こちらに来るよう』に、だってさ」
真面目な声で言う拓士。私もじい様という言葉に唇をかんだ。
「わかってくれた? そういうわけだから、よろしくね」
それだけ言うと、電話は切れたのでした。
克明さんが問うように私のことを見ている。けど、私だっていきなりなことで、心の整理がつかない。
「茉莉、実家はどこにあるんだ」
穏やかな言い方に改めて克明さんのほうを向いた。克明さんは先ほどまでのことを感じさせない……って、そんなわけないじゃない。私が後頭部をかき回したから、髪が乱れて色気が増している。髪をかき混ぜただけで色気が増すって何なのよ。
克明さんは私から視線を外してため息を吐いた。その様子がセクシーで、自然と先程までふれあっていた唇へと目が行ってしまう。
私は心の中で首を振ると彼の顔から視線を外して、実家がある地名を答えたのでした。