162 思いが通じる時…… ーキスの雨ー
克明さんの服を掴む手を、彼の手が包むように触れた。震えているのがわかってしまった。
「いいのか、本当に」
「克明さんが、いいの」
彼の腕が腰に回されて引き寄せられた。体がぴったり密着した。左手が頬に添えられた。愛おしそうに撫でられる。
「後悔しないか」
「しないわ」
それだけじゃ、言い足りないと思って、もう一言付け加える。
「手取り足取り腰取りで、教えてくれるんでしょ」
克明さんはフッと口元に笑みを浮かべると「期待していろ」と言って、唇を合わせてきた。
最初は軽い触れるだけのキス。唇だけでなく頬や額、瞼など、顔中いたるところにキスの雨が降ってくる。目を閉じた私はくすぐったく思いながら、彼のキスを受けいれた。
また唇に戻って……今度は啄むようなキス。角度を変えて何度も繰り返しキスをされて吐息が漏れた。その隙を逃さないとばかりに、彼の舌が侵入してきた。口内を味わうように動く舌に翻弄される。
だんだんと深くなるキスに頭は霞がかかったよう。
「茉莉、かわいい」
唇が離れて耳元で囁かれた。彼の首に腕を回したら、抱きあげられた。ベッドまでは数歩。
優しく壊れ物を扱うかのように、ベッドに下ろされた。私の上に覆いかぶさるようにしてきた克明さんと見つめあう。
右手で頬に触れて、顔にかかった髪を払いのけてくれた。
もう一度キスをしてほしい。
両手をあげて彼の頭へと手を伸ばす。後頭部を抱きしめるように引き寄せた。唇が重なる寸前……。
ピロリロリ~ン ピッピッロ ピッピッロ ピロピロロ~ン
軽快な電子音が聞こえてきた。
ビクリとなって、動きを止めた私達。思わず顔を見合わせた。しばらく動けずにいたら数十秒後に電子音は止まった。
「茉莉」
問いかけるような彼の声に、グイっと腕に力を入れて彼を引き寄せた。唇が重なり、先ほどの続きを……と、思ったのに、また電子音が聞こえてきた。
ピロリロリ~ン ピッピッロ ピッピッロ ピロピロロ~ン
ピロリロリ~ン ピッピッロ ピッピッロ ピロピロロ~ン
数十秒後にまた音は止まった。克明さんは私の顔の横に肘をついて、音の発生源を睨むように見つめている。
ピロリロリ~ン ピッピッロ
また鳴り出した携帯に、克明さんは私の上から起き上がった。私も渋々起き上がり携帯のほうへと行った。
うん。わかっているのよ。こんだけ続けてかけて来るのだから。緊急の要件だろう。
それでも、せっかくの覚悟を邪魔されたと、恨みがましい視線を携帯電話へと向けたのだった