161 眠ろうと……部屋へ向かう……
「デートのやり直し?」
私は体を起こすと真っ直ぐに富永氏のことを見つめました。
「ああ、あれじゃあ茉莉が望んだデートとかけ離れていただろう。変な横やりも入ったし」
そう言うと、富永氏はグラスに入ったブランデーを飲み干した。
「今日は変に疲れただろう。もう眠ろう」
そう言うと、テーブルの上を片づけだしたので、私も残っていたブランデーを飲んでグラスを持ってキッチンへ。ハムのお皿にラップをかけて冷蔵庫へとしまう。
グラス他を食洗機に入れて片づけは終わった。
富永氏はリビングを出ると洗面所へ。……あっ、歯磨き。私も歯ブラシを持って、歯磨きを。
先に歯磨きを終えた富永氏は、私が洗面所から出ると玄関のほうから戻ってきた。どうやら戸締りの確認をしたみたい。
リビングの明かりを消すと立ち止まっていた私を見て、笑みを浮かべた富永氏。そっと背中を押されて私の部屋へ。……いや、客間へ。
扉を開けて部屋の中に入るように促された。私が部屋の中に入ると、富永氏は私を軽く抱き寄せた。
「お休み、茉莉」
額に口づけをすると腕を放して、扉を閉めようとした。
「待って」
私は反射的に扉を押さえた。
「このまま別々に寝るの?」
私の問いに富永氏は困ったように笑った。
「その方がいいだろう」
「なんで? 今日こそはって、決めていたんじゃないの?」
重ねた問いに一瞬視線を外したけど、富永氏は穏やかな笑みを浮かべていった。
「茉莉、今日は君の誕生日プレゼントとして、楽しませたかったんだ。最高の思い出にしてあげたかった。それなのに横やりが入り、嫌な状態になってしまったじゃないか。そんな半端な状態で茉莉を抱きたくない」
言葉を飾らず、本音で話してくれた富永氏。
私は……。
顔を俯けて、彼の服を摘まむように掴んだ。
「でも……私も……私が、抱いてほしいと願ったら?」
目を瞑り小さな声で囁くように言った。
そう、私だって、今日は覚悟を決めていたのよ。恋愛に臆病になってすべてから目を背けていた私を、確かな愛情で包んでくれた。少しずつ前を向いて歩いて行けるように、背中を押し続けてくれた。自信をくれた。
この人ならと、思えるまで待っていてくれたのよ。
私は顔を上げて富永氏……克明さんの目を見つめた。
「愛される喜びを教えて」