160 えっ? そもそも茶番(女性たち)も仕掛けの一つ?
「茉莉、覚えていないか? 金曜の夜に御大と話した時に、映画を見に行く話になって、今の公開作品の話が出ただろう。その時にさりげなく恋人が見るのならこの作品と言われたのを」
「えっ? 待って、待って。それじゃあ、なに? そこから仕掛けられていたの?」
「……どう考えても、そうとしか思えなくてな」
歯切れ悪く答える富永氏。走馬灯のように今日のことが頭の中を流れていく。どっかのお嬢様たちの暴走から、ありえない状態での映画鑑賞。その後の豪華なランチ。
それが全部仕掛けられたことだった……と?
ランチの後からは記憶は曖昧だ。だけど思い返すと映画の内容と同じ様なことをしていたことに気付かされた。
あの映画は現代版マイフェアレディと銘打っていた。現代版というようにかなりアレンジされていたのよね。でも、不遇な女性を美しく生まれ変わらせて、彼女を不幸な目に合わせていた奴に見返すことをしていた。
ある意味まんま、私じゃないか。
「そんな~」
脱力して力が抜けて、ソファーへと突っ伏してしまった。
……悔しい~。いい様に手のひらの上で踊らされていたなんて。
本当にセレブ何様よ! 人の恋路を娯楽にするなよ!
ジトーと恨みを込めた視線を富永氏に向けてしまった。
「なんだ」
「富永氏って何者なのよ。御大なんて呼ばれる上流階級の大御所に可愛がられているなんて」
「違うぞ。俺がかわいがられているわけはないだろう」
「じゃあなんなのよ。可愛がられているんじゃなければ、こんな回りくどいことを仕掛ける必要はないでしょう。それともあれなの? 富永氏の恋は彼らの娯楽だとでもいうの?」
「そんなんじゃないって。御大は俺に恩義を感じて手助けしてくれようとしただけだから」
「恩義! どんな恩義があれば、こうなるわけ?」
「だから……御大の娘を、不当な虐めから助けただけだ」
「はっ? どこのネタよ。それは!」
「本当だから!」
富永氏が言うには、高校の同級生に虐めの対象になった女生徒がいたそうだ。その人を助けたら……御大の隠し子だった、と。
なにやらあったらしいけど、今はその方は外国で幸せに暮らしている……そうだ。
だから、何のネタ? えっ? なんのフラグだったの?
釈然としないながらも、それで富永氏は御大と呼ばれる人物に可愛がられているのかと、納得したのよ。
「まあ、そういうわけだから、デートはもう一度やり直すことにしよう」
と、富永氏はため息を吐きだしながら、言ったのでした。