19 えーと、これは悪だくみ ですか?
「お前はこのままにするつもりか」
「このままにするわけないじゃないですか。きっちり別れますとも」
多分、あの様子なら私から別れを切り出されたら、それだけでダメージを与えられるんじゃないかと思うのよね。
そう思ったのに、富永氏は納得してくれなかった。
「それじゃあ、俺の気が済まん」
気が済まないと言われても、私も面倒なのは嫌だから、さっさと別れたいんだけど。
「どうせ別れるんなら、立ち上がれないくらいコテンパンにしてやらないか」
人の悪い笑みを浮かべて富永氏はそうのたまわった。
「えーと、あんまり権力を使うのはどうかと思いますけど……」
「だーれがそんなことに権力を使うって言ったよ。あいつを凹ませるのはお前だ」
「私ですか?」
思わず自分のことを指さして訊いてしまった。本当に何を言い出すんだ、この人は。
「そう、お前だ。お前は最初の日に髪をおろせと言ったのに、今日までずっとまとめ髪でいたよな」
そりゃあそうでしょ。秘書として隙は見せたくないですから。
「頑固だと思ったけど、今はそれが功を奏しそうだ」
ニヤリと笑って私のことを見てくる富永氏。目がランランと輝いている気がする。
「知っているか。先ほどのバーで戻るお前の後姿を、あいつらはお前と気づかずに見惚れていたんだぞ」
ん? バーで見惚れられた? 確かあの時は……居酒屋を出たところで、富永氏に「二次会に行くぞ!」とつかまり、ついでに髪を纏めていたバレッタを取られてしまったのよ。
あー、そういえば二次会でみんなが私のことを構おうとしたのって、それが大きかったんじゃないかしら。髪をおろしたことで、近寄りがたさが半減したのね。
「だからな、3か月後に開かれる創立50周年パーティーで、綺麗になった姿を見せつけて振ってやろうぜ!」