1 異動の通達
今日は朝からついていなかった。
いつもなら一度目のアラームで起きるのに、今日は三度目でやっと起き上がることが出来た。こんな日に限って寝癖が酷くて直すのに時間がかかるし、せっかくおろしたてのストッキングだったのに、駅に着くまでに垣根の枝にひっかけて盛大に伝線させてしまった。仕方がないから、コンビニで新しいものを買う羽目になり、さらに時間ギリギリでの出勤になってしまったのだ。
そして、とどめがこれだ。
「大石茉莉さん、急で悪いけど、来週から他の人についてもらうことになったから」
「はっ? あっ、いえ、えーと、異動ということですか、室長」
「そうなんだ。本当に申し訳ないけどね」
申しわけないと眉尻を下げて手を合わせて拝むようにしてくるダンディな室長に、私は慌てて「頭をあげてください」と言った。確かに急な異動で戸惑うけど、内容を聞かないことには判断のしようもない。
「それで、私が次につく方はどういう方なんですか?」
真っ当な質問だと思うのに、室長は黙ってしまった。それからおもむろに机の上から、何かの資料を持ち、私に差し出してきた。見ろということなので、受け取ってページを捲っていく。
「室長、これって」
資料を読み切って顔をあげた私に「よろしく頼むよ」と、室長は、頭を下げたのでした。